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中川監訳の新刊「エコシステム・ディスラプション」が発売されました。監訳者が自ら、キーポイント解説!

書いた人
中川功一(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
元大阪大学大学院経済学研究科准教授。「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが気軽に学べる完全オンラインの「やさしいビジネススクール」を創立。YouTubeでも、経営学講義&時事解説を好評配信中!

経営戦略論分野で、久しぶりに大きな理論的前進がありました。 アドナーによる「エコシステム・ディスラプション戦略」です。日本語版は2022年8月11日に発売となりまして、私はその監訳を務めさせていただきました。簡単ですが監訳者なりにこの本のポイントをまとめておきたいと思います!

ロン・アドナー著 中川功一監訳「エコシステム・ディスラプション」

目次

エコシステム・ディスラプションは 「イノベーターのジレンマ」の発展形

アドナーの提示する「エコシステム・ディスラプション」の議論は、クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」の発展形という学術的位置づけとなります。クリステンセン自身が生前それを認め、自身の理論の後継であるとしています。イノベーターのジレンマをより一般化することを通じて、21世紀の現代に起こっている競争というものの変化の本質を捉えている。いや正直凄まじい知性だ。さすがに世界は広い、凄い奴がいたもんだと、私も感心しきり。

かつてクリステンセンが描いた時代には、産業の非連続的変化をもたらすものは、製品(サービス)イノベーションでした。新しい価値の次元を提案する、破壊的(非連続的=ディスラプティブ)イノベーションによって、既存のプレーヤーは危機に陥り、別の企業が成功をつかむ。

フィルムカメラから、デジカメへ。
音楽CDから、ダウンロード配信へ。
機械式時計からデジタル時計へ。

しかし今日、ディスラプションは、イノベーションによってではなく、【エコシステム】によって、もたらされる。

デジカメから、スマートフォンへ。
ダウンロード配信から、ストリーミング配信へ。
デジタル時計からスマートウォッチへ。

フィルムカメラ→デジカメ、音楽CD→ダウンロードには、明確な技術的な変化があります。技術的な転換により、新しい価値次元が登場しているわけです。一方、デジカメ→スマートフォン、ダウンロード→ストリーミングには、技術的なジャンプがあるわけではありません。というより皆さんが気にかかるのは「デジカメとスマートフォンを比べていいの?」なのではないでしょうか。特に学者だとか、厳密な区別を大切にする人ほど。

【そういうくくり方はダメ】。まさにこれこそが、今日のディスラプションの契機なのです。

第4次産業革命が様々な産業のボーダーを消していく中で、顧客の体験が、そして価値の次元が大きく転換している。これが、現在起こっていることです。 そこにはもはや、明確な技術的イノベーションがない。しかし、ボーダーを越えて提案される総合的なサービスが、単独の製品・サービスでは実現できない顧客価値を提供するがゆえに、産業の非連続的変化:ディスラプションんが起こるのです。

製品で勝負をするという「誤ったゲーム」をプレーしているから、各社が敗北を喫してしまう。「正しいゲームに負けているのではなく、誤ったゲームの勝者となっている」これがアドナーの重要な警鐘なのです。

気づかぬ間に、産業のボーダーが取り除かれ、メーカーが気づくよりも早く、ユーザーが居住する【エコシステム】に非連続的な変化が起こっている。

かくして、第3次産業革命時代にはディスラプティブ・イノベーションが競争戦略の鍵だったわけですが、第4次産業革命期にはエコシステム・ディスラプションが戦略の鍵となってくる。

かつてカメラは「フィルムカメラ」から「デジタルカメラ」へという技術的な非連続イノベーションで革新がもたらされた。

今日は、カメラモジュール、SNS、映像ドライバー、編集アプリ、クラウド保存サービスなどの「価値を総合的に提案する仕組み:エコシステム」によって、既存の単体商品が敗北するようになっている。

・広い目線で「顧客価値」がこんにち、どういう形となっているのかを知ること
・それを、企業間連合で提案すること

この2つが、競争戦略の鍵となってくる。かくしてエコシステムの非連続的変化「エコシステム・ディスラプション」が起こる。

時代の読みと、思考の深さに驚嘆する1冊。 それでいて、海外経営学者本にありがちな「で、どう実践すんのよ?」という不満もない。 丁寧に、ビジネス弱者の側に立って、出来る所から始められる実践指南も妥当な論理で書かれている。さすがに世界の経営学界を見渡せば凄い奴がいる。そう思わされた1冊。

私は監訳者として、最初に本書全体の見通しが立つよう、解説を付けています。

経営学の危機が叫ばれるようになる中で(中川もその意見には概ね首肯する)、社会の変化をこそ捉え、いまを理論化することに成功したアドナーのこの業績は、非常に高く評価されてよいのではないかと思います。

動画でも解説していますので参考にしてください!

著者・監修者

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