ピボット(pivot)は、英語では「回転軸」を意味する言葉です。
ビジネスシーンにおいては「方向転換」や「路線変更」といった意味で使われています。
事業の軌道修正や、全く新しいアイデアや企画に取り組むことをピボットと表現します。
今回の記事では、ピボットをおこなう際の10個の型や、ピボットピラミッドを使った考え方を解説していきます。
成功した事例、おこなう際の注意点などもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ビジネスシーンにおけるピボットとは
ビジネスシーンにおいてのピボットとは、市場のニーズに現在の事業戦略やアイデアが合っているかをすり合わせるプロセスのことを指します。
特に、新しく起業したばかりの企業は、新しい技術やビジネスモデルなどを開拓して挑戦することも珍しくありません。
最初から上手く軌道に乗せることは難しく、繰り返しピボットをおこなうことで、成功への道をひらくことにつながります。
仮説を立てて実行し検証することで、事業戦略やアイデアが市場のニーズをつかんでいるのか、それともずれているのかを把握していきます。
必要に応じてピボットをおこなうことは、事業成功への道筋をつけるうえで、重要なプロセスだといえるでしょう。
ピボットの10個の型
ピボットをおこなうにあたっては、10個の考え方の型があります。
それぞれの特徴を順番に解説していきます。
Zoom-in pivot(ズームイン・ピボット)
いままではプロダクト(製品)の機能の一部であったものを、主要なプロダクトに変更する手法のことをいいます。
一部の機能に特化することで、提供するプロダクトに焦点を合わせることができます。
効率化しやすく、他社との差別化を図るのに有利です。
Zoom-out pivot(ズームアウト・ピボット)
従来のままでは顧客のニーズや今後の課題に応えられない機能を強化したり拡大したりしたのちに、プロダクト全体の主要機能へと変更する手法です。
Customer segment pivot(顧客セグメント・ピボット)
ターゲットにするユーザーが定まった後に、理想とする顧客像(ペルソナ)を変更する手法です。
製品ではなく、対象とする顧客層の変更をおこないます。
Customer need pivot(顧客ニーズ・ピボット)
顧客そのものを見直し、自社製品やサービスに関しての課題を再検証する手法です。
顧客にとって得られるメリットが少ないと感じられたり、課金意欲をそそられないと感じられたりするプロダクトにおいて有効です。
Platform pivot(プラットフォーム・ピボット)
「アプリケーションのプラットフォーム化」もしくは「プラットフォームの放棄」をする手法です。
Business architecture pivot(ビジネスモデル・ピボット)
ビジネスの収益構造を、高い利益率の商品を少量売る「厚利少売」から、低い利益率の商品を大量に売る「薄利多売」に変更する手法のことをいいます。
逆の「薄利多売」から「厚利少売」へ変更する場合も同じです。
Value capture pivot(収益モデル・ピボット)
広告やサブスクリプションによる利益、手数料などといった定期的に得られる収入の発生源を変更する手法のことをいいます。
Engine of growth pivot(成長エンジン・ピボット)
企業が持続的に成長し続けるために必要な原動力ともいえる考え方を変える手法です。
成長エンジンは、企業の成長度合いを測る尺度としても用いられます。
成長エンジンの考え方には、以下の3つの型があるといわれています。
- 粘着型成長エンジン(スティッキー)
- ウイルス型成長エンジン(バイラル)
- 支出型成長エンジン(ペイド)
Channel pivot(チャネル・ピボット)
販売経路や流通経路といった販売チャネルを変更する手法です。
例として、訪問販売から通信販売への変更などが該当します。
Technology pivot(テクノロジー・ピボット)
もともとある課題に対して、新しく開発された技術で解決しようとする手法のことをいいます。
ピボットピラミッドから戦略を考える
ピボットをおこなうには「ピボットピラミッド」を使って考えると、戦略をたてやすいといわれています。
ピラミッド型で構成され、何をピボットすればいいかが視覚で理解できる仕組みです。
ピラミッドのステージ階層と構成内容は、あらかじめ決められています。
ステージ階層は5つで、一番下は顧客(Customers)の階層です。
下から以下の順で構成されます。
- 顧客(Customers)
- 課題(Problem)
- ソリューション(Solution)
- テクノロジー(Tech)
- グロース(Growth)
例えば最下層の「顧客」の階層を変更すると、それより上の階層は場合によっては見直しが必要となるなど、上下の階層は関係しあっています。
ここからは「ピボットピラミッド」を構成する5つの階層について、順に解説していきます。
顧客(Customers)
顧客(Customers)が最下層に位置し、ピラミッドの土台となります。
ターゲットとなる顧客を変更した場合、タイミングによっては上の4つの階層全ての見直しが必要な場合があります。
ときとして、ピラミッド全体の変更が必要なくらいの大きな事業転換につながる場合も起こりえます。
課題(Problem)
顧客(Customers)の上の層に位置するのが、課題(Problem)です。
顧客へのヒアリングやマーケティングをおこなっていくと、当初は課題だと思っていたこととは別のところに課題があることに気づくことがあります。
課題のピボットでは、このような場合、ターゲット顧客を変えるのではなく、課題を再評価することが必要です。
課題のピボットをおこなうと、それより上層の「ソリューション」「テクノロジー」「グロース」といった3つの層に関しても再度、見直しが必要です。
ソリューション(Solution)
ソリューション(Solution)=解決策は、ピラミッドピポットでは中間層に位置します。
製品の導入や評価が思うようにいかない場合は、ソリューションが適切かを疑ってみるといいでしょう。
ソリューションのピボットで必要なのは、顧客や課題を変えるのではなく、解決策を改めて見直すことです。
解決策を見直すことで、顧客のニーズに正しく応えられているかを把握する必要があります。
テクノロジー(Tech)
テクノロジー(Tech)は、ピラミッドピポットでは上から2番目の階層に位置します。
テクノロジーの選択次第では、次のグロース(成長)の妨げになる可能性があります。
例えば、サーバーがユーザーの需要に見合っていない、処理に適したプログラミング言語を使用していないなどのケースがあてはまるでしょう。
グロース(Growth)
グロース(Growth)=成長が、ピボットピラミッドでは頂点になります。
事業をグロースさせるためには戦略が必要です。
新たなキャンペーンや実験などを行なったり、PDCAサイクルを頻繁に回したりなどして、戦略を考えます。
グロースのピボットには、チャネルが飽和状態だったり、コストがかさんだりするなどのリスクがともなう場合があります。
ピボットで成功した事例
ピボットをおこなったことによって、大きな成長をとげた企業は多数あります。
次は、実際にピボットで成功した企業の事例を3社ご紹介します。
TSUTAYA
レンタルビデオ店業界大手のTSUTAYAは、当初はレンタルビデオの取り扱いを主な事業としていました。
しかし次第に、レンタルビデオの貸し出しに使用するTポイントカードを使ったマーケティング事業にも力を注ぐようになります。
他企業と提携して、さまざまな店舗でTポイントカードを使用できるようにしました。
使用できる店舗が増えることで、Tポイントカード使用者の行動履歴や嗜好などのデータ化が可能となります。
集められたデータは、さまざまな企業に提供され、マーケティング事業に活用されています。
その結果、TSUTAYAは、BtoCからBtoBへビジネスモデルをシフトチェンジして、さらなる成長をとげることに成功しました。
富士フイルム
富士フイルムは、かつては写真フイルムメーカーの大手企業でした。
しかしながら、2000年代にデジタルカメラが普及するにともない、写真フイルムの需要が激減してしまいます。
写真フイルムでは市場自体の存続が危ぶまれ、回復の見込みがないことはあきらかでした。
そこで富士フイルムは、写真フイルムの技術を応用して、医薬品、化粧品、再生医療の分野へ事業形態を転換しました。
その結果現在では、化学メーカーとして業績を順調に伸ばしています。
プレイステーション
ソニーによって開発されたプレイステーションは、当初はCD-ROMを読み込む据え置き型のゲーム機でした。
その後、ネットワークと接続できるようにしたところ、単なるゲーム機ではなく、家庭用エンターテイメントプラットフォームへと進化を遂げました。
現在のプレイステーションは、ゲームだけではなく、音楽や映像も楽しむことができるため、結果として、ターゲット層の拡大につながっています。
ピボットをおこなう際の注意点
ピボットは、企業にとって大きな変化をもたらす可能性があるため、安易におこなうものではありません。
成功だけではなくて、失敗する可能性もあるので、おこなう際は慎重に判断する必要があります。
また、ピボットをおこなう際は、変えてはならないことなどのルールをあらかじめ決めておかないと、企業としての軸がブレてしまう可能性がでてきます。
それらをふまえたうえで、ピボット実施の際にはどのようなことに注意したらいいかをみていきましょう。
ピボットするタイミングを見極める
ピボットをおこなうタイミングは、慎重に見極めなければいけません。
早くても遅くても、いい結果にはつながらないことが多いといえます。
ベストなタイミングとしては、ある程度、市場が成長してきた時期におこなうのがよいとされています。
具体的には「仮説を立てて、実行し、仮説と実行の結果を検証できる時期」というのが1つの目安です。
市場がまだ育っていない時期では、仮説を実行して検証できる材料が少ない状態であり、市場が成長しきっている時期では、競合他社に後れをとってしまいます。
ピボットは、適切なタイミングを見極めておこなうことが大事だといえるでしょう。
ユーザー視点でのピボットを意識する
ピボットで大事なことは、ユーザー視点を意識することです。
製品やサービス内容を、ユーザーが望まない仕様に変更したり、全く別の事業に手を出したりすると、既存のユーザーは離れてしまいます。
定期的にユーザーの意見を聞くなどしながら、ユーザー視点でのピボットを意識することを忘れてはいけません。
安易な逃げ道として使わない
ピボットは安易におこなうものではない、という意識を持つことが大切です。
やるからには、目の前の状況をどうすれば改善できるかを徹底的に追及して、問題解決につながるように導かなければいけません。
ピボットを有意義なものにするには、問題の原因追及や解決策、今後の対策などを洗い出して検証する必要があります。
逃げ道としての安易なピボットは、問題解決につながりにくいだけではなく、企業としての軸がブレる、既存顧客が離れるなどのデメリットが生じる可能性があります。
ピボットの実施はあくまで最終的な選択肢と考えて、頻繁にはおこなうものではないと覚えておきましょう。
ピボットを戦略的に取り入れて企業のステップアップを!
ピボットは企業にとって「現在の企業戦略が市場のニーズに合っているか」「市場のニーズからズレていないか」などを照らし合わせるプロセスです。
ピボットを戦略的に取り入れて市場のニーズをつかんでいけば、企業としてのさらなる発展につなげることも可能となります。
ピボットは、安易な逃げ道としてではなく、タイミングを見極め、ユーザー目線を意識したうえで慎重におこなうことを心がけるものです。
おこなう際は、ご紹介した10個の考え方の型やピボットピラミッドにあてはめて考えていくといいでしょう。
注意点をふまえたうえで戦力的におこない、企業のさらなるステップアップを目指しましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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