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大阪万博でも実施!「リビングラボ」って何だ?【2020年度立命館大学イノベーションマネジメント第2回フィードバック】

本日はですね、また立命館大学さんでのイノベーションマネジメントの科目の第2回目のフィードバックですが、学生さんに出したお題は「リビングラボって何なのか、そのイノベーションに与える効果を考えてください」という問題です。このリビングラボ、実は今度2025年に開催される予定の大阪万博の基本コンセプトの一つと位置付けられているんですね。

リビングラボ、なかなか皆さん耳にしたことがない言葉だと思うんですけれども、このリビングラボってのが一体何なのか、どうしてそんなことを万博の重要なテーマに据えてまで実施するのか、そこにある社会課題の解決やイノベーションへの効果ということをちょっと考えてみようというのが、お題です。

目次

●リビングラボとは

まずはこのリビングラボって何なのかというのを皆さんと共有、学生と共有したいと思うんですけども、リビングラボというのはこんな感じの定義になります。

新しい製品、サービス、あるいは技術、そういったものを開発するようなプロジェクトの中で、ユーザーや市民、関係各方面、行政さんも含めて、そんないろいろなステークホルダーが参加した形で行われる、生活空間あるいは現実の空間の中での実証実験および創発活動という感じです。

要するにですね、通常企業の中の実験室とか密室空間の中で外に対外的に情報を秘匿して行うものが製品開発だったり、実証実験だったりするわけなんですけど、あえてそれを外に出してしまおう、一般の人の目に触れるところで実証実験をやってしまったり、創発活動、物事を作る活動をやってしまおう。

そういう発想がリビングラボなんですね。単に人に見せるだけじゃなくて、実際に物をその現実の使用空間の場において、使ってみてもらって感想を言ってもらって改善案を出してもらったりしながら、現実のこの空間の中で物作りをしてしまおう、それがリビングラボというものなんです。

大阪万博はこのリビングラボをですね、このPeople’s リビングラボ、PLLというふうな言い方をしまして、中核的なテーマの一つと位置づけまして、この万博の全体を、万博自体をリビングラボと位置づけて、そこで様々な技術や様々な社会課題を投入して、人々と一緒にそこを訪れた人と一緒に課題解決をしていこうということでこれを中軸に据えてるわけなんです。

●イノベーションにもたらす効果

このリビングラボがイノベーションにもたらす効果なんですけれども、学会では一般にこんなふうなことが言われてます。学会のみならず実際にこのリビングラボを推進しているような取り組みをしている人たちというのは、こういうようなことを念頭に取り組みを行ってます。実際に実証されている効果でもあるんですが、このイノベーションには四つのステップ四つのフェーズがあるというのがこの私の講義の中でお話をしているんですが、四つのフェーズそれぞれに効果があるんですね。

第1には市場調査、機会発見という意味でいうと、実際にその生活空間、現実空間の中で使ってもらって体験してもらうことで、ユーザーによりどういうところに不満があるのか、どういう面では課題が解決できるのかどういう機能がもっとあった方がいいのか、そういった詳細なニーズを出してもらうことによって、顧客ニーズをより精緻につかむことができるようになる。

ぼやっとしたものではなくて、ぐっと顧客から具体的なこういうところがね、こういう機能ついてた方がいいよねこういう部分は不要だね。この具体的なニーズの情報を手に入れることができるので、ニーズを当てやすくなる外れにくくなる。これが機会発見、市場調査という面でのメリットです。

第2に、アイディア創出という段階で言いますと、そのいろんなステークホルダーが参加するわけですね。行政の人も来れば関係企業も見に来るし、競合さんも見に来るかもしれない。いろんな人が見に来る中で、ここをこうした方がいいんじゃないかというようなアイディアが、どんどんどんどんその場に投入される新しいアイディアが、物を見て、そこで伝えられることを通じて、アイディアがどんどんどんどん出てきやすくなる。

現実空間で使ってみるわけですから、意外とこの商品にこんな新しい機能を入れたらどうだろう、こんなセンサーをつけたらどうかこんなAIを導入したらどうか、そういうアイディアがどんどん出てくることによって、課題解決のための製品やサービス、技術というものが飛躍的に発展していく可能性があるわけです。

第3には、製品開発という側面でいえば、その今出てきたようなアイディアとかニーズ情報をきちんとその場で反映させて製品をどんどんどんどんブラッシュアップしていくことができるのであれば、この修正のサイクルがその中で回っていくのであれば、このお客さんの声を聞きながら、関係各方面の声を聞きながら、完成形へと非常に速いスピードで進んでいくことができる。

実はリビングラボの効果が一番表れるのはこの修正のサイクルがきちんと回ってる限りにおいては、製品開発のアクセラレーション、スピードアップができるということが大きなメリットだと考えられているわけです。

そして第4には、事業化という観点で言うと、人々の目に触れる、耳に入れることで、露出を高めて認知度を向上させることができる。そこから、先行的な顧客の獲得に繋がるかもしれないし、様々な支援者が現れるかもしれないし、行政の理解が得られるかもしれないし、中にはお金を出してもいいよというような資金提供者も現れるかもしれない。販売を、販売代理店をやらしてくれという人も現れるかもしれないわけで、いろんなその支援者が現れる可能性が飛躍的に高まる。

これもリビングラボの重要な効果だったりするわけです。

●資源動員効果

この背後にある重要なキーワードが、資源動員効果というものです。学生諸君で今回レポートを書いてくれた人の中でこの視点があった人というのは実はあんまり少なくって、この点に注目してくれた人を私は今回高く評価してます。

リビングラボの最大の効果の一つが、この資源動員という効果にあります。露出を高めることを通じて、援助してあげてもいい、支援してあげてもいいという人が、社内外にたくさん現れてくるわけです。社内のお偉いさんが万博でやってるのを見て、これはうちの会社としてもっともっとリソースを投入してぜひ成功させるべきだと、そういうふうに判断がつくかもしれないし、社外の人が見てその、先ほども言いましたように、その製品サービスぜひうちで扱わせてくれ、販売代理店やらしてくれ、そういうようなことを言う人が現れるかもしれない。あるいはベンチャー企業であれば資金を投入させてくれという人がいるかもしれないし、実際に使ってみた市民や潜在ユーザーの人が出来上がった暁には絶対買うよ、とお客さんになることを約束してくれるかもしれない。こういう資源をかき集めてくる効果が露出させるこのリビングラボにはあるわけなんです。

このイノベーションの実現において資源動員が大切だということはですね、実は度々検証されておりまして、resource mobilizationというふうに英語で言うんですけれども、資源動員はイノベーションの重要な一側面なんです。

単に新しいアイディアが思い浮かべば、そのまますっと商品になるわけでもないし、良いプロダクトが出来上がれば自然に売れていくわけでもない。そこに至るまでには莫大な資金が必要だし、物が出来上がった後には売っていくためにも、莫大な資源が必要になってくる。ですから事業化のためにはこの資源動員ということはどうしても必要なわけで、リビングラボが持つ重大な効果としてこの資源動員が見込まれるということがあったりするわけです。

●場のマネジメントが大切

そしてもう一つ学生諸君でこの観点があった人は本当に見事だったんですけれども、批判的視座を忘れちゃいけないですね。

ここまで私の話を聞いて健全に批判的精神があると言えば、何言ってんだよ、そんなにうまくいくはずがないだろう、こういうふうに言われたから結構いるんじゃないかと思います。鋭いです。本当にその通りだと思います。そんなにうまくいきますかね、万博。2025の万博でそういうことをやってそこから一斉に新しい技術がバーっと芽吹く。

ちょっとイメージしにくいですよね。ただこのシニカルな冷笑的な見方をしたら絶対失敗するよ、こんな目線で物事を見ていたらイノベーションが起こるはずのものも起こらなくなってしまうというのも事実。ですからイノベーションを起こそうとする人は、アニマルスピリット、野心的にそれが成功するんだという方向に賭けられる人こそが成功する。

あんまりシニカルに冷笑的に皮肉っぽく、失敗するよなあんなのな、こういう見方をしていてはいけないんですけれども、だからといって絶対成功する、ほっときゃ成功する絶対うまくいく、そんなふうに思ってしまうのも問題なわけです。

うまくいかない可能性も非常に高いんだというそこは冷静に見極めて、どういったところに課題があるのか。少なくともほっておいてリビングラボを作っておけば後はうまくいくなんていう資源動員が進むなんてことは考えられないわけで、であれば、やっぱり結局のところ大切になってくるのは、場のマネジメントなんです。

私は先ほど中でもちらっと言いましたね。たくさんアイディアが出てくる、たくさんのニーズ・情報が出てくるけれども、それを反映させることなくうーんと単に遠巻きに見ているだけではうまくいかないんです。その場で出たアイディアを即座に製品に反映させて、新しいバージョンの製品を提案していく。このサイクルが回ってこない限りには、製品化のアクセラレーションなんてことは起こらない。

その場で様々な人が支援を申し出たときに、あなたとどう組みましょう、あなたとどう組みましょう、各アライアンスをうまく組んでいったりカスタマーをしっかり繋ぎとめていかなければ、事業化進んでいかないわけです。

要するには結局、場のマネジメントの問題なわけで、その意味ではうまくいかないんじゃないかという批判的な目線を持つこともここで大切かもしれません。

●最後に

学生諸君に向けて言うとですね、こんな感じですね、あの不安とアイディアがたくさん出てなんかいいんじゃないか、そこからもう一歩踏み込んで、実現のためのリアルな資源が手に入るとか、そのためには今一歩マネジメントが必要なんだそういったところまで切り込んでくれた人は非常に私としては心強く思っています。

皆さんにおきましては、このリビングラボというアイディアを知っておいていただき、皆さんがこれから何か新しいことを起こそうとするときに、ちょっとそのアイディアもうまく活用してもらえたら嬉しいなと思っています。

著者・監修者

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