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ビジネスモデルキャンバスの使い方を、タピオカミルクティー屋さんで解説【イノベーションマネジメント6-1】

イノベーションマネジメントは、ここから後半戦です。

前半は、どうやって新しい製品を生み出していくのかを議論しました。イノベーション活動の残り半分は、その事業化です。どうやって事業化をするのかを、ここからやっていきたいと思います。

目次

ビジネスモデル・キャンバスについて

で、事業開発という段階になったら、現代の決定版手法があります。その名も、「ビジネスモデルキャンバス」。

いろんなとこで聞いた人も多いと思うんですけど、本当にめちゃくちゃ便利で、これを知ってるか知らないでか、あるいは正しい使い方を理解してるかどうかで、本当に違いが出てきます。どうかこの手法、イノベーションを胸に秘める人でも、今イノベーション活動に取り組んでる人でも、そうでない人でも、必ずあなたのビジネス力として役に立つのでこの手法を確実にマスターしてください。

このビジネスモデルキャンバスというのは、事業計画を作るときの必要要素を1枚の絵図面に書くものです。必要十分な要素をそろえたうえで、その各種要素がどういう関係になっているのかというのが、頭の中で整理される。また、見方がわかっている方なら、誰でも相手のビジネスの勘所をつかむことができる。ということで、こんにちではシリコンバレー等々、世界中で新規事業を考えるときの、標準的な思考ツールとして利用されています。

こうした理論や手法を抽象のまま説明すると、スッゴイ難しくなってきちゃうので、簡単にわかるように、ここでは実例で紹介していきたいと思います。くどくど説明するよりも、例で見た方が早い、という良い事例ですね。話が横道に逸れますが、抽象は具体で説明する、というのは知っておくとよい説明手法だと思います。

で、今回はその例として、「タピオカミルクティー店」を使います。日本ではブームが収束気味ではありますが、―あるいはこの動画を見ていただいてる皆さんにとっては、そんなブームが日本にあったの、という人もいるかもしれないんですけども、あえて、この例でビジネスモデルキャンバスを論じていきたいと思います。

順番を考えることが大切

ビジネスモデルを考えるときに、とっても大切なことは、思考の順番なんです。物を考えるのには、順番がある。

なので私が今から話す話、どういう順番で話をしてるのかな、この点にも注目してください。

なので私が今から話す話、どういう順番で話をしてるのかな、この点にも注目してください。

価値提案について

まず最初に考えるのは、これから始めようとしている事業が、世の中にどういうふうに貢献するのか、という点です。これを、ビジネスモデルキャンバスでは「価値提案」という言い方をします。ヴィジョンだとかパーパスだとかという言い方をしてもよい。世の中に、顧客に、株主に、投資家に、いろんな人に向けて、私達の会社はこういうことをして、世の中に価値を提供していこうと思います、という提案。という意味で価値提案です。英語だと、バリュープロポジション。

これが、なぜ重要なのかと言えば、現代では、投資を受けるにも新事業を作るにしても、どういう価値をあなたは提供したいのか、これなしにはビジネスが作れない時代だからです。誰のために、何を提供してるんか。これがはっきり言えないことには、ふにゃふにゃとしたビジネスモデルになってしまう。なので、社会的価値が明確に言えるということが、ビジネス構築の第一歩になってきます。

タピオカミルクティーの場合には、なかなか難しいですよね。今日、お腹いっぱいにしようと思えばもっと安く食べられるご飯はいくらでもある。美味しい飲み物、美味しい飲み物ではあるけれども、それにしたって他にいくらでもある中で、タピオカミルクティーじゃないと提供できなかった価値、これは当時でいえば、SNS映えとか話題とか流行なんですね。

話題のタピオカミルクティー店に行ってきました。そんなのをパシャッとインスタで撮るっていうのが、女子高生女子大生の間でブームになったのでこれで売れたと。でもこれも立派なビジネスですよ。

だって、幸せを生んでいるじゃないですか。女子高生、女子大生のひとときの友達と過ごす幸せな時間、タピオカミルクティーのない世界とある世界でいえば、あった方が遥かに幸せなわけですから、確かに誰かの幸せを生んでいる。その意味でやっぱりイノベーションだったんです。というわけで、タピオカミルクティー店の価値提案は、SNS映え、話題、流行、これらを軸にしながら美味しい飲み物であって、栄養も摂れる、のどの渇きも潤せると、そういう商品を提供するというものであったわけです。まずこの中核となる価値提案を決めるのが第一歩です。

とはいえ、「映え」という以上には、タピオカミルクティー店には明確な社会における価値がなかったことが、長続きしなかった理由ですね。ここのところに、課題があったわけです。

事業の成功は市場を創れるか

そして次は、これを誰にどう提供していくのかという、マーケティングサイド。事業の成功というのは、特にその立ち上がり序盤においては、市場が作れるかどうかで決まってきます。売り上げが立たないことには、事業組織も何もないわけですから、市場が作れるかどうかが大切になってくる。なので次に考えなきゃいけないのは、先ほど定めた価値の受け取り手として、誰が最も望ましいのか、受益者を考えることです。要するに、マーケティングにおける、ターゲティングの話。

マーケティングの成功失敗を決定づけるのは、カスタマーが的確か、です。その先のいろんな戦術も、そもそもターゲティングが間違っていれば上手くはいかない。面白いプロモーションなんて所詮は面白いプロモーション。ターゲティングがズレていれば、価値は、社会に届かないのです。

タピオカミルクティーの場合で言えば、あまりにも顧客が明確過ぎたので気がつかなかったと思いますが、もしこれを「40代の男性ビジネスパーソン」に売ろうと思えば、とても困難なビジネスになってしまっていました。でも、皆さんそんな顧客をイメージしなかったのは、なぜだと思います?「カワイイを軸とした映え」だという、この商品の価値の部分が明確だったからですよね。この商品の価値が映えだということが分かっていれば、おのずその受け取り手は、女子大生や女子高生であることがわかります。

ですから、価値提案が先なのです。この価値提案がクリアなら、受益者(ターゲット)もクリアに、見えてくるのです。

受益者が見えたら、次には何が見えてくるか。その人に届けるためのチャネルです。

自然と売り上げが立つようなチャネルを選択するというのが、次に考えること。そして限られたリソースで情報が提供できるように情報を流していくチャネル。最も費用対効果の高いチャネルを考える。2種類のチャネルを考えるというのが、この特にスタートアップにおいてはマーケティング上重要になってくるんです。

その上に載せるメッセージとかも、もちろん大切です。良いメッセージじゃないと刺さらないわけですから。だけれども、まずベースになってくるのは、しっかり売りが立つ販売チャネルと、お客さんに知ってもらうための情報チャネル、この二つを選び抜くことです。

タピオカミルクティーの場合は、路面店ですね。仮にタピオカミルクティーがコンビニで売っていたとしても、全然SNS映えしないわけじゃないですか。だとすれば、販売チャネルは路面店しかあり得ないわけです。またコンビニでさばいていくボリュームを作ろうと思ったら、生産能力に莫大な物を投資しなきゃいけないけども、路面店で店頭で受け渡しをするのであれば、それぐらいのボリュームだったら簡単に作れるわけで、販売チャネルは、路面店だろうと。

なぜ販売チャネルが特定できたか。提案すべき価値とその受益者が見えていたから。だから、この順番以外、あり得ないわけです。

そして情報チャネル。JK、JDにアクセスできる最も費用対効果が高い情報チャネルはといえば、SNSになるなってくるわけですから、インスタ等でマイクロインフルエンサーさんなんかをうまく活用して、どこどこ店のタピオカ行ってきました。というような話をたくさんやってもらう。これらの有効なチャネルを選択するにあたっても、先立つものは、カスタマーの像がはっきり見えてるからですよね。JK、JDというカスタマーが見えてるから、自然とチャネルが選び出された。

この関係、よくよく注意してください。別の順番でやっても頭が回りません。価値提案があって、そこからターゲットが見えて、そしてターゲットに合わせたチャネルを選択する、という順番になってくるわけです。

収益の出やすいバリューチェーンを考える

この次に考えるべきなのは、それを提供していくときのバリューチェーンをどうするのか、実際は事業活動の活動の中身の方ですね。私達はそれをバリューチェーンなんていう言い方をしたりしますが、収益の出やすいバリューチェーンを考えなきゃいけないわけです。

で、ここで考えるべきことは、大きく二つあります。何を自分たちでやり、何をパートナーに任せるのか、自分たちがやること、パートナーにやってもらうこと、これを同時に考えなきゃいけないんです。

ここにおける最大のポイントは、とにかくパートナーに頼るべきだという点です。パートナーに頼れば頼るほど、自分たちの事業の内容がどんどんどんどん軽くなっていくわけですから、コスト的にはどんどんどんどん楽になっていくわけで、だからこそ、パートナーに頼った方がいいわけです。

もう一つ、パートナーに頼った方がいい理由というのは、パートナーの持っている強力なリソースを使うことができるわけです。たとえば、このパートナーとして、なんか芸能人がうちの店のことを気に入ってくれて、あなたのお店だったら格安で宣伝してもいいよと言ってくれるのであれば、そういう有力なタレントさんのパートナーシップがタピオカ店として組めればその人に比較的割安な広告料をお支払いするだけでその人はたくさん宣伝をしてくれる一方でその人ですからJK、JDに向けて露出を高めて、自分のブランド価値を高められるので、ウィンウィンになるわけです。

こんな感じで、パートナーの有力なところと組むことができれば、あなたのビジネスが一気に伸びるわけです。あるいは、タピオカの調達なんかで有力な総合商社と組んで、総合商社さんからいろんなノウハウをもらうことができたりしたならば、やっぱりあなたのビジネスは一気に伸びるわけですね。このパートナーの力で事業を大きくすること、「レバレッジをする」なんて言い方をしますが、まさにパートナー戦略のポイントは「レバレッジをする」。

あなたの一つの会社だけでは十分にできないことを、レバレッジというのはテコの原理というわけですけど、相手の力でぐっと一気に大きくする、小さい力を大きくする、そういう力を持ってるのがパートナーさんなんです。有効なパートナーシップ戦略を見つけらせれば、そこから正解が見えてくる。そこから事業の次なる展開が見えてくるんです。

その中で、タピオカミルクティー店の場合はどういうことをやったかというと、とにかくコストを圧縮するために、自社がやることは店舗運営だけでいいと、何も店舗の店員さんだって正社員で雇う必要なくて全員JK、JDのバイトでいいと。パートナーさんとしては、タピオカを輸入してくる商社さん、それから茶葉を与えてくれる人、牛乳を売ってくれる人、砂糖を売ってくれる人、カップを売ってくれる人、ストローを売ってくれる人、全てをパートナーに頼りきれば、自分たちのコスト構造はものすごく軽くなる。これらのパートナーさんがこういうの強みを持っていたとすれば、それが活きてくるわけです。

そのタピオカは提供してくれてるところとか、牛乳を提供してくれてるとこ、そういうとこが独自に持っている販路であるとか、協力企業さん、そういったネットワークを使ってビジネスをもっともっと大きくしていくこともできるわけです。ともあれ、これらの要素を全部外にお願いパートナーさんにお願いできてるわけですから、タピオカミルクティー店でめちゃくちゃ利益が出やすい構造になってるんですよ。

会計見積もりを考える

この次にあるのは、その次のステップとしては、会計見積もりです。どれくらいの売り上げが立って、どれぐらいの費用になっているのかを見積もる。これを考える上ではもう1回マーケティング側から見るわけですね。

マーケティングでJK、JDに路面店でSNS、インスタなんかで情報を発散しながらビジネスをやったとしたら売り上げがどのくらい経つだろうか。この実際の売り方を考えていくと、そこからどれくらいの売り上げが立つかが見えてくる。路面店で販売するというと、一杯400円で商品を売ったとしてそれが月に2000杯ぐらいこの2000杯という数字は、月に25日営業者として1日80杯ぐらいの計算になる。1日80杯なんて楽勝だと思いません?80杯も売れば、それで月の売上高が80万円にもなるんですよ。

一方で費用側を見積もるとなってきたときには、今度はバリューチェーンの方を見ていけばいいわけですね。バリューチェーンの方、自社が何をやってるのか、何をどこからどれぐらい調達するのか、そこから今度は費用のイメージが立ってくる。実はタピオカミルクティーというのは原価はたかだか40円ぐらいだといわれています。

何が高いか、皆さん何が一番高いと思いますか。牛乳なんですよ。牛乳だけは生鮮食品ですから、日本国内で牛を飼っている農家さんから頂戴しないといけないから、牛乳がダントツで高い。ということはタピオカ増量キャンペーンをして牛乳の量が減ると、それで利益はより出やすくなると、そういう構造にあるビジネスだったりもするわけですけども、ともかくいっぱい作ってたかだか40円なんです。カップにストローも含めてですよ。

だとすると2000杯売ったところで、月の費用はタピオカの原材料費というのは8万円にしか過ぎない。それより今日本でビジネスをするとすると、より高くなってくるのは、人の値段が一番高い。人件費が一番高くて、女子高生のバイトを3人雇って回したとしても、それで1人に7、8万円ぐらい払っていくとすると、人件費は25万円ぐらいかかってきますし、一方次に日本で高いのは土地です。

日本で一番今高いのは人、次に高いのは土地なんですけれども、家賃が大体、大阪大学の近くで場所を借りたとして、15万から20万ぐらいかかってくるという計算になってきますから、これで大体家賃としては月20万円ぐらいというような相場になります。とすると、これで費用感としては、合計で月々53万円ぐらいかかってるんじゃないかなあ。プラスいろんな費用が乗ってねという計算になってくるわけです。

かくして、これで私達は売上と費用の見積もりがそれぞれマーケティング側とバリューチェーン側から出てくるわけですから、それを突き合わせていけば、月々の利益が大体27万円よりちょっと少ないぐらいかなというような見積もりとして出てくるわけです。

こんな感じで、結局最初に社会にどういう価値を提供するのかから、その抽象的なビジョンの話から始めて、最後にはそれが具体的にどれくらいの利益になるのか、という生々しい金銭計算の話まで至れる。

すごいツールだと思いませんか?これによって見事にビジネスモデルとして必要な要素が全部ひとかたまり議論できるということになってくるわけです。だからこそこのビジネスモデルキャンバス。めちゃくちゃ使いやすいツールだということで、世界中で愛用されているわけです。

まとめ

そんなわけで、このビジネスモデルキャンバス、部分だけ切り出したんですけど、もう1回全体をぱっとお見せしますとこんな感じになりますね。真ん中に価値提案を書く。真ん中に、まさにこの事業の中核たるビジョン、どういう価値を社会に提供して社会にどういう貢献をしていくのか。これを書きまして、それに対して右側にそれをどうやって社会に提供していくのか、その価値を社会に提供していく、提供のやり方、マーケティングを議論する、そして一歩左側にはその価値を生み出すための活動、バリューチェーンをどうやってくむのかの話をしていく。

そしてマーケティング側からは売上が見込まれ、バリューチェーンの側から費用が見込まれるとすると、下の部分にその費用見込み、売上見込みを書いていくと、これによってどれくらいの売上利益が立つのかが見えてくるわけです。このようにして、これを1枚の絵に書けば、ビジネスモデルキャンバスが完成です。価値提案が見事にどういうビジネスの形を描いていくのかということが表現できるわけです。

●タピオカミルクティー店が廃れた訳

というわけで、ビジネスモデルキャンバスの学びの話としてはここまで。

ちょっと長かったんですけどめちゃくちゃ重要です。

これ身につけるだけで本当に大きいですから。皆さんにはぜひこの手法を身につけていただきたいんですけども、ここでですね、皆さんに考えてもらいたいんです。練習問題として!

もうタピオカミルクティー店、今では通用しないですよね。去年、2019年ぐらいまではボロ儲けだったんですけど今はもう厳しい時代です。

なぜかというのも、ビジネスモデルキャンバスが正しく理解できれば皆さんにはもうおわかりなはずです。まずもって価値提案が弱いんですよね。ひとときのSNS映え、話題、流行、友達との幸せ、そこにフォーカスしたがゆえに、それが継続性がないからビジネスも全然継続性がない。ですから他のマーケティングだとかバリューチェーンだとかをいかに変えようとも、このままではタピオカミルクティー店は継続はできないんです。根本たる価値提案の部分が弱いから、もう今の時代には求められていないからです。

であるとすれば、考え直すべきは、このタピオカミルクティー店が世の中に新しい価値を提供してそれが継続的に人々を幸せにしていくのだとしたら、ビジネス全体がよりサステイナブルになっていくはずです。ぜひですね、なので皆さんに、このビジネスモデルキャンバスを学びを完成させるためにこれをやってみてもらいたいと思います。皆さんなりにタピオカミルクティー店を、イノベーションをしてみてください。

より長く社会に愛され、社会に安定的な価値を届けられるようにするには、タピオカミルクティー店、どういうふうに価値提案から見直さなきゃいけないだろうか。そしてその価値提案が変わってきたら、カスタマーが変わってくるはずですね。ターゲットはもう女子高生、女子大生じゃないのかもしれない。ターゲットが変われば流通チャネル、販売チャネルも変わってきます。そして、価値提案が変わってくるなら自分たちがやるべきバリューチェーンのデザインも変わってくる、組むべきパートナーも変わってくるはずです。女子高生に受けのいいタレントとはまた違う人と手を結んでいくことになるはずです。

そしてそれは最終的に売上費用の構造にも影響を及ぼしてくる。そんなわけで、ビジネスモデルキャンバスの学びを、皆さんなりに深めてもらい完成させてもらう意味でも、一つ思考の訓練としてちょっとこのタピオカミルクティー店のイノベーション、チャレンジしてみて考えてみてもらえたら嬉しく思っています。

著者・監修者

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