イノベーションマネジメント、本日から第2のテーマ「イノベーションのプロセス」に進みたいと思います!
イノベーションのプロセスは明確に議論が2層構造になっています。今日の話は、そのうちでも基層にあたるもの。現実はなかなかこの基層の議論通りにいかないんですけども、それでもまずはイノベーションが起こるその基本の形がどういうものなのかを、しっかり押さえておく必要があります。
イノベーションプロセス概念図
“基本形”
こちらがそのイノベーションの一般的なプロセスとして知られているものです。
こちらのモデルは、1960年代にマイヤーズとマークイズという2人の研究者によって提唱されたものです。
既にもう半世紀ぐらい昔もなってしまったんですけども、これ、その後もずっと歴史に残るような重要な研究として知られているんです。このプロセスモデル以外にも、イノベーションに関する基本理解として、様々な発見があった研究でした。
とはいえ、それはまた追い追いお話するとしまして、まずは皆さんこのイノベーションのプロセスというものを理解してください。
イノベーションプロセスは、大きく分けて四つのフェーズからなっていまして、まず最初のフェーズが機会の発見です。
機会の発見
自分が、イノベーションを起こせるんじゃないかというような、機会を発見する。
それって何がきっかけかというと、世の中や、社内でのニーズの発見。私たちはそれらをひっくるめて「社会ニーズ」と呼んでしまいますが、それをまず発見する。そして次には、それをどういう技術で解決するか、というような解決案のベースイメージ。
この二つが、ビビッと見えた時。
自分だけに、それが見えたんじゃないか。それはひょっとしたら冷静にみれば「過信」や「思い込み」なのかもしれないのですけど、それこそが大切。自分が発見してしまった、自分だけが気づいてしまった、自分がやらなければという”entrepreneur’s intention”’(起業意図:ここでは起業に限らずイノベーションを企図することすべてに使います)が大切なのです。
これが、機会発見の一番最初フェーズです。
このタイミングにおいては、イノベーションを目指すアントレプレナー・起業家は、社会と技術の情報をインプットするなかから、機会を見つけます。
どういう技術が利用可能なんだろうか、社会にどういうニーズがあるんだろうか。
意図的にか意図せざる結果によってか、あるとき、気づいてしまう。それがイノベーションの一番最初のフェーズです。
アイディアの創出
そして第2フェーズはというとそこから、ぐっと具体的なアイディアの創出ですね、具体的なアイディアに結実する、こういう社会ニーズをこういう技術で解決するんだ、具体的にはその二つの結節点としてはこういう製品のアイディア、こういうサービスのアイディアがあるんじゃないのか。
というこのアイディアを生み出していくっていうのが第2フェーズであります。
ちなみにここでは製品と書きましたけど、わかりやすくするためであるのと、現状に忠実に書いてるからであってもちろんサービスでもいいですし、ビジネスモデルなんかでもいいわけです。
製品開発と市場調査
そして第3のフェーズになってきますのが、製品開発と市場調査のフェーズです。よし、このアイディアを事業化しようとなったら、ここから具体的な製品開発に入ってくる。
このフェーズでは、一方では、エンジニアさんが実際に物を作っていくフェーズとなる。このタイミングでもう1回改めて技術情報をどんどん仕入れる。どういう技術を使って、どういうふうに組み上げていくのか。
一方で、実際の事業化を担う人たちは市場性の方も確認していく。どういうとこにカスタマーがいて、カスタマーが求めているのはどういうものか情報を具体的に仕入れていって、それを製品開発にも反映させていくという形で、製品情報と市場の情報等を繋ぎ合わせて、どういうビジネスを組み立てていけばいいのか。市場情報を得ていきながらビジネスモデルを少しずつ考えていくのが、この市場情報を集めるという取り組みになってくるわけです。
というわけで第3のフェーズは、製品開発と同時並行としての市場調査、ビジネスモデル構築のフェーズになってきます。
事業を立ち上げ
そしてそれが無事一つの製品と事業のモデルに組み上がったならば、ここから次のフェーズ。最後の第4フェーズは、事業を立ち上げ事業化のフェーズです。
実際に当初予定していたような市場には売れなかったり、実際に狙っていたような値段では売れなかったり、うまくいかないことも、とっても多いわけです。
そこで、製品をマイナーチェンジしていったり、狙う市場を変えていったり、ビジネスモデルを組み替えたりしながら、収益化を目指して、ここから先も様々に努力をしていく。
この事業を組み立てていくというフェーズになっても、まだまだ流動的で何が正解かを模索していくことになるわけです。
というわけで、この模索続きの、ずっと正解を模索する不確実性に満ちた模索続きの活動がイノベーションという活動になるわけです。
イノベーションマネジメント研究の始まり
ここで若干マニアックな、ぜひイノベーションを学びたい・研究したいという人のために込み入った話をします。もちろん、イノベーションに実際に挑戦している人にも、学びになることだと思うので。
先ほど言った、このイノベーションの基本モデルを提案したマイヤーズとマークイズというこのお二人について少し説明したいと思います。
実はこれはですね、全米を挙げてアメリカの国家プロジェクトとして行われた、どうやったらイノベーションがうまくいくのかっていう、大規模なレベルの調査なんです。
全米でうまくいったイノベーションの実例を、多量のサンプルを集めて、それが成功した要因が何だったのかっていうのを探求した。
当時はまだこのイノベーション研究というのが行われていませんでしたから、イノベーションってそもそもどういうプロセスで済むんだという知識もなかったわけですね。
そこでこのマイヤーズとマークイズさんたちは、大量のデータを集めていくなかで、イノベーションの一般的なプロセスという先ほどのかたちを提案した。そしてその中で具体的に4フェーズそれぞれに何が大切なのかってことを具体的に調べ上げた研究なんです。
というわけでマイヤーズとマークイスの研究は、記念碑的な研究として知られているんですけども、その中でもこんにち、これがやっぱり基本だよねということで共有されているのが先ほどのイノベーションの4フェーズモデルなわけです。
ただ、このモデルはあくまで基本形であって、実際はフェーズ間を行ったり来たりする。事業化まで行って、何か当初のアイディアがおかしかったんじゃないかって戻ることもあるし、製品化まで行ってちょっともう1回市場情報を調べ直してみようかってこともある。アイディアを問い直してみようってこともある。
実際のところは、フェーズは行ったり来たりしながら、だんだんだんだん出口に向かっていく、そういう流れだというふうに言われています。
マイヤーズとマークイスの研究は、実質的なイノベーションマネジメント研究の始まりです。1969年の業績なんですけども、ここから一気にその後半世紀にわたって、イノベーション研究が盛んになっていきます。この私のブログシリーズも、基本的にこの4フェーズモデルに沿って、各フェーズでのポイントを皆さんにお伝えしていくことになると思います。
ウォーターフォールモデル
時を同じくして、ウォーターフォールモデルというもう一つ別のイノベーションプロセスのモデルが提案されているということを皆さんに伝えたいと思います。
これもですね、まさにマイヤーズとマークイズが1969年にあの研究業績を成したのと、ほぼ時を同一にして、68年から70年頃に成立したと考えられていますが、ウォーターフォールモデルというのがソフトウェア分野から提案されました。
当時ソフトウェアの、大規模化ということが問題になっていました。
いまだに、ずっと問題になりますけれども、この50年前から言われたんですね。ソフトウェアの大規模化。
それによって当初の予算が莫大に膨れ上がってしまったり、当初の期間に間に合わずに、ものすごく何年も延長してしまったりってことが問題になっていたんです。
どういう分野で?特に、軍事分野なんですね。
当時冷戦下にありまして、アメリカの国力を左右すると考えられた。
ですから、このソフトウェアの開発が勝負になってくるんだから、このソフトウェアの開発を短期間にしなさい、しっかりコスト予算内に収めなさいってことが、アメリカの重要な問題関心になったんですね。
そこで、このアメリカも参画する軍事連携であるNATOの指導のもとで、どういうソフトウェア開発をすべきなのかということが学者たちで議論されて生み出されたのがこのウォーターフォールモデルなんです。
これはですね、何でソフトウェア開発が長くなっちゃうかというと、できてたはずの部分にバグがあって手戻りが発生してしまう、うまくいった部分を戻らなきゃいけないということで何度も何度も前工程に戻って設計をやり直したり、基本的な要件のやり直しをするので、これで期間が長くなってしまったりコストがアップしてしまうっていうことが明らかになっていたんですね。
なので、最初に完璧に遺漏なく、要件定義をしましょう。ですからそこにめちゃくちゃしっかり厳密な要件定義をします。
それでそこで問題をなくしたら、次のフェーズに進みましょう。
一つ一つのフェーズにゲート水門を設けて、そこまで完璧にやりきる、それができたら次のフェーズに進んで次のフェーズも完璧にできたらやりきるで、戻って直しはしない。
必ずそのフェーズの中で直しなさいっていうルールで進めると、これによって戻ることはない、水は高いところに戻る子は戻り来ないので、ウォーターフォールモデルと言われたんですね。
これによって、まさにこの開発期間が長くなりすぎないコストの増大も抑えられるということで、新しいものを開発するときの基本モデルだってことでバーンと北米では展開されるに至るんです。
それはまさにマイヤーズとマークイズの唱えたモデルを1個ずつ前に進めていくのが基本形ですよねということで、まさにこれが基本形という形で世の中に共有されていくわけです。
しかしですね、こちらも、イノベーションの過程、新しいものを生み出す過程というのは、そうはいかないっていうことが実際に運用していく中でわかってくるわけです。
どうしたって技術はどんどん進歩進歩していきますから、そうすると、戻ってやり直した方がいいものが作れることがある市場だってどんどん変化していきます消費者のトレンドだってどんどん変化していきますから、5年前に企画して商品開発5年間かかって作られたものなんてもう5年前のトレンドに合わせたものだから、それではとても商品として売れなくなってくる。
そうなってくると、何度も何度も行ったり来たりして、基本的な要件を見直したり社会ニーズがどこにあるかを見直したりしながらぐるぐるぐるぐるサイクリックに進んでいくのがいいんじゃないのか、そういうふうに考えられてるんです。
ウォーターフォールモデルからアジャイルへ
イノベーションのプロセスは、ウォーターフォールモデルもマイヤーズとマークイスの4フェーズモデルも、これが基本形だけれども、実際は何度も何度も戻りながら少しずつ前に進んでいく。それが、現実に採用されるアジャイル型と呼ばれるものです。
サイクリックに前進していく過程、こちらの方が望ましいというふうに、今日は考えられています。
ここで皆さんにもう1回強調しておきたいのは、基本の4フェーズモデルは変わらないんです。
基本の4フェーズ、機械発見アイディア創出、製品開発、事業化、この4フェーズモデルは変わらないんですけれども、しかし、一直線に進んでいくのではなくて、何度も何度も行ったり来たりしながら、修正されて進んでいくそのソフトウェア分野では、アジャイルといい、より広く一般的にはデザイン思考というふうな言い方をするわけです。
次回は、このアジャイル的なサイクリックに修正しながら進める、現実により即したイノベーションのプロセスモデルというものを紹介したいと思います。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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