ダニングクルーガー効果とは、実際の能力以上に自分を過大評価してしまう効果です。
適切な自己評価ができず「自分はできる」と思い込んでしまっていると、ビジネスにおいても周囲との関係に悪影響を及ぼしてしまいます。
本記事では、ダニングクルーガー効果のリスクや原因、対処法について解説します。
ダニングクルーガー効果を正しく理解して、上手く対処していきましょう。
ダニングクルーガー効果とは?
ダニングクルーガー効果とは、正しい自己評価ができず、過大評価してしまう状態を表します。
病気ではないため、誰でも陥る可能性があります。
一見「自信家」に見えるため、その人の性格のようにも思えますが、ダニングクルーガー効果をそのままにしてしまうとその人の成長が見込めません。
そのため、ダニングクルーガー効果に陥っていると感じたら、適切な対処を行う必要があります。
ダニングクルーガー効果の起源はダニングとクルーガーの実験
ダニングクルーガー効果は、名前のとおり「ダニング」と「クルーガー」という2人の心理学者が行った実験から生まれました。
2人の心理学者は、学生に対して「ユーモア」「論理的思考」「英文法」のテストを実施します。
その結果、3種目すべてにおいて実際の評価が低い学生ほど自己評価が高く、実際の評価が高い学生ほど自己評価が低いとわかりました。
そのため、自己評価を高く感じてしまう現象に「ダニングクルーガー効果」という名前がつけられたのです。
魅力的な容姿でない人ほどダニングクルーガー効果に陥りやすい?
2022年に行われたある実験では、容姿においてもダニングクルーガー効果が関連している可能性を挙げています。
知的情報サイト「Big Think」によると、学術誌「Scandinavian Journal of Psychology」で発表された論文で、豪インスブルック大学の社会心理学者トビアス・グレイテマイヤー教授らは、自分の魅力を過大評価する可能性が最も高い人は、最も魅力的でない人たちであることを突き止めたと発表したのです。
グレイテマイヤー教授は、以下のようにコメントをしています。
「全体的に魅力的でない参加者は、自分が平均的な魅力を持っていると判断し、他人がそうは思っていないことにほとんど気づいていませんでした。対照的に、魅力的な参加者は、自分の実際の魅力の程度について、より多くの洞察を持っていました」
ダニングクルーガー効果は、自己評価が高くなる状態なので、容姿との関連も否定できません。
ダニングクルーガー効果は嘘?
一部では、ダニングクルーガー効果は科学的根拠に乏しいとして、嘘ではないか?という噂もあります。
ダニングとクルーガーの実験の問題点は、以下の2つです。
- 対象の学生が同じ大学で同じレベルと考えられる
- 対象者が45人と少ない
上記の点から信ぴょう性が低いとされていますが、100%ダニングクルーガー効果を嘘と断定できるわけではありません。
ダニングクルーガー効果の反対「インポスター症候群」
ダニングクルーガー効果の反対語として「インポスター症候群」と呼ばれる状態があります。
インポスター症候群は、何かを達成して周りから評価されても「自分にはそんな能力がない」「周りが助けてくれたおかげ」と過小評価してしまう状態です。
一見謙虚な姿勢にも思えますが、自分を過小評価することで自己肯定感が下がったり本来の能力を発揮できなかったりする可能性があります。
ダニングクルーガー効果のリスク
ダニングクルーガー効果は、他者と自分との評価にズレが生じてしまうものです。
そのため、ビジネスシーンにおいてもコミュニケーションの問題が発生してしまいます。
以下で、ダニングクルーガー効果のリスクをいくつか解説するので、対処法を検討しておきましょう。
過大評価によるミス
ダニングクルーガー効果によって自己評価が高いと、小さなミスを起こしてしまいやすくなります。
たとえば、自分に自信がない場合であれば、どのような仕事でもミスをしないようにと慎重に行うでしょう。
しかし、ダニングクルーガー効果に陥っている場合は「自分はできる」と思い込んでいるために注意が散漫になります。
成長意欲の低下
ダニングクルーガー効果は、「自分は知識がある」と思い込んでいる可能性があります。
自分に知識があると思い込んでしまっている場合は、自ら積極的に知識を増やす努力をしなくなってしまうでしょう。
反対に「自分には知識が足りない」と感じている人は、自ら積極的に知識を増やそうと行動します。
ダニングクルーガー効果に陥っている人は、知識も増えず、成長する機会も失ってしまうのです。
他者への適切な評価ができない
ダニングクルーガー効果に陥っていて自己評価が適切にできない人は、他者への評価も誤っている可能性があります。
そのため、上司がダニングクルーガー効果に陥っている場合は注意しなければいけません。
部下に対して適切な評価が行われず、不満になってしまう可能性があります。
反対に、周りから評価が低い人に対して、高い評価をしてしまう可能性もあります。
騙されやすくなる
ダニングクルーガー効果に陥っている人は、自分の判断に自信を持っています。
そのため、詐欺や嘘などにおいても「自分が騙されるはずがない」と信じてしまうのです。
その結果、犯罪被害に遭ってしまう可能性もあります。
乗り越える力がなくなってしまう
ダニングクルーガー効果に陥っていると、新たな挑戦を乗り越えられなくなってしまう傾向があります。
なぜなら、自己認識と現実の壁に大きな差が生まれてしまうためです。
一見、自己評価が高い自信を持つ人はどんな困難にも前向きに挑戦しますが、ダニングクルーガー効果に陥っていると「自分に乗り越える能力がない」とわかったときに混乱してしまいます。
責任をなすりつけやすい
ダニングクルーガー効果に陥っている人は、何かトラブルがあった際に、人になすりつけてしまう傾向があります。
なぜなら「自分がミスをするはずはない」と思い込んでいるからです。
明らかに責任があったとしても「邪魔された」「足を引っ張られた」などと責任転嫁してしまいます。
コミュニケーショントラブルに発展する
自己評価が高いことは、トラブルに発展する可能性もあります。
たとえば、自分より能力が低いと思っている相手に対して高圧的な態度をとったり、上から目線で指示してしまったりするなどです。
そのため、社内で孤立してしまったり、言い争いになったりする可能性があります。
ダニングクルーガー効果の原因は主に2つ
ダニングクルーガー効果に陥る原因は、主に2つあります。
- フィードバックが少ない/受け付けない
- 他責思考が強い
基本的に自己評価の軸は他人からの評価で形成されます。
しかし、ダニングクルーガー効果に陥る人は、他人からの評価を受けなかったり自分の評価を素直に受け止めなかったりするために自己評価が高くなってしまうのです。
以下で、それぞれの原因について、より具体的に解説します。
フィードバックが少ない/受け付けない
他者からのフィードバックが少なかったり受け付けなかったりする人は、ダニングクルーガー効果に陥りやすいです。
他人からのフィードバックがないと、自分の失敗や至らない部分に気づけません。
その結果「自分はできている」と思い込んでしまい、周囲の評価とズレが起きてしまいます。
周囲から良い評価だけではなく悪い評価も伝えるようにすることで、ダニングクルーガー効果に陥ることを避けられる可能性があります。
他責思考が強い
基本的に、人は誰でも何か問題が起きたときに、自分以外の原因を探してしまいます。
この傾向が強い人は、ダニングクルーガー効果になりやすいです。
ほとんどの場合は、他の原因を探しながらも自分にも原因があると感じています。
しかし、ダニングクルーガー効果に陥りやすい人は、自分の原因をゼロだと感じ、他者や他の原因を先に探ってしまう傾向があるのです。
ダニングクルーガー効果のメリットは?
ダニングクルーガー効果は、基本的にマイナスな部分が多いです。
しかし、一点だけメリットがあります。
「何事も前向きに自信をもって行動できる」点です。
たとえば、未経験の異業種に転職するなども、躊躇なくできるでしょう。
多くの場合、躊躇したり失敗を恐れたりして、異業種への転職は難しいです。
しかし、ダニングクルーガー効果に陥っている人なら、失敗を恐れずに突き進めます。
ダニングクルーガー効果の対処法
ダニングクルーガー効果に陥っていたとしても、訓練次第で周囲の評価とのズレを修正できるようになります。
そのため、周囲の人間がダニングクルーガー効果を理解して、上手く付き合っていかなければいけません。
以下でダニングクルーガー効果の対処法を解説するので、適切な対処をしてズレをなくしていきましょう。
自分を客観視する能力を育てる
ダニングクルーガー効果に陥るのは、自分を客観視できる能力が低いからです。
この自分を客観視する能力を「メタ認知」と呼びます。
メタ認知能力を高めれば、少しずつ周囲との評価のズレがなくなっていきます。
そのためには、上司と1on1ミーティングをしたり、会社全体で認知バイアスにする研修を行ったりすると良いでしょう。
成果を数値で表わす
目標や成果を数値化することも、ダニングクルーガー効果の対策として有効です。
数値化して目で見える形に表せば、進捗や達成度がわかりやすくなります。
そのため、ダニングクルーガー効果に陥っている人も、自分ができていないことに気づけるようになるのです。
ただし、ダニングクルーガー効果に陥っている人は「自分の努力が足りていないから達成できない」と思えないかもしれないので、上司や同僚から、何が足りていなかったのかをしっかりフィードバックしてあげましょう。
交友関係を促す
ダニングクルーガー効果に陥っている人に対して、多くの人と交流を持つように促してあげましょう。
自分の意見がとおりやすい環境や同じ人間関係では、自分自身の発見ができません。
多くの人と交流することで、新しい発見や自分の至らない点を発見しやすくなります。
とくに、広い視野を持つ経営者などとの交流を持たせてあげると良いでしょう。
フィードバックを受けやすい環境を作る
他者からのフィードバックを受け入れない人であれば、その人自身ではなく、環境に問題があるかもしれません。
会社の文化としてフィードバックがなければ「指摘されないのが当たり前の環境」になっているからです。
そのため、フィードバックを習慣化したり評価制度を見直したりする必要があります。
フィードバックが習慣や文化になっている会社であれば、ダニングクルーガー効果に陥っている人でも、素直に指摘を受け止めるようになるでしょう。
ダニングクルーガー効果のセルフチェックはできる?
ダニングクルーガー効果のセルフチェックツールはいくつかありますが「自分はダニングクルーガー効果に陥っているかもしれない」と感じている時点で、ダニングクルーガー効果に陥っている可能性は低いです。
そもそも、ダニングクルーガー効果に陥っている人は自分に自信がある状態なので、セルフチェックをしようとする考えをもたないでしょう。
そのため、ダニングクルーガー効果を自覚してもらうには、周囲の人が声をかけるしかありません。
ダニングクルーガー効果を正しく理解して適切な対処をしましょう
ダニングクルーガー効果は、まず周囲の人間が正しく理解しなければいけません。
「自信家だから近寄りたくない」「話が合わない」などと距離を置いていると、その人の自己評価が修正されないまま進んでしまいます。
「自分には関係ない」と感じるかもしれませんが、ビジネスシーンにとって、ダニングクルーガー効果は大きなリスクです。
もし、ダニングクルーガー効果に陥ったまま上司になったりチームリーダーになったりした場合は、部下やチームメンバーに対して適切な評価がされません。
結果的に、社内の不満が溜まり、大きな問題となってしまうでしょう。
このような問題を予防するためにも、ダニングクルーガー効果を早い段階で修正しておく必要があります。
今回の記事で解説したような対処法を試しながら、少しずつダニングクルーガー効果に陥っている人のメタ認知能力を育てていきましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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