DECAXとは何か?その基礎知識
デジタル技術の急速な進化は、生活者の購買行動に大きな影響を与え、その行動を理解することは企業にとって中核的な課題となっています。これらの行動を理解するための説得力のある青写真を提供するモデルのひとつが、電通が2015年に発表したコンセプト「DECAX」です。
この購買行動モデルは、「発見」「関係構築」「確認」「行動」「エクスペリエンス」のカスタマージャーニーの段階を組み込んでおり、企業が消費者との意義深い関係を築くための骨格となるフレームワークを提供しています。
DECAX購買行動モデルの概念
DECAXモデルは、「Discovery(発見)」段階から始まります。この段階では、マーケティングキャンペーンやソーシャルメディア、あるいは友人や家族の推薦により、消費者が製品やサービスを初めて知るところからスタートします。「Engage(関係構築)」の段階では、消費者は製品のデモを見たり、レビューを読んだりして、ブランドと深いつながりを持つようになります。
次の「Check(確認)」の段階では、消費者が製品やサービスを詳細に評価し、競合する他の商品と比較します。これに続く「行動」の段階で消費者は購入決定を行い、「Experience(体験)」の段階で製品やサービスを使用し、その感想を共有します。この「体験」の段階は特に重要で、良好な体験は再購入や口コミを通じて新たな「発見」の段階につながるという構造を持っています。
このDECAXモデルを具現化している具体的な例として、アップルの製品販売戦略が挙げられます。アップルは革新的な製品の発表やマーケティングキャンペーンを通じて、「発見」の段階を効果的に行います。次に「関係構築」の段階では、店頭での製品体験やオンラインでの対話、詳細な製品説明を通じて、消費者とのつながりを深めます。「確認」の段階では、消費者がアップル製品と他社製品とを比較し、「行動」の段階では、シームレスな購入プロセスにより製品を購入します。最後の「体験」の段階では、アップルの製品の品質と高いカスタマーサービスにより、大抵の場合、消費者は良好な体験を得ます。(参考:https://www.forbes.com/sites/christinemoorman/2018/01/12/why-apple-is-still-a-great-marketer-and-what-you-can-learn/, Forbes, 2018).
DECAXの発展背景と現代ビジネスへの意義
DECAXモデルは、世界的に名高い広告・PR会社、電通がデジタル時代の変革に対応すべく表現した消費者行動モデルです。デジタル技術やソーシャルメディアの飛躍的な進展を受けて、電通は従来の購買行動の線形モデルが現代の消費者行動を捉えきれないことに気付きました(参考:「DECAX:新しい消費者行動モデル」内藤敦之、電通、2015)。
DECAXは単なる購入決定への道筋だけでなく、リピート購入や口コミを生む経験までも包括した、より循環的で高度なモデルを表現しています。現代ビジネスにおけるDECAXの重要性は、消費者との継続的な関与が必要であることを明示している点にあります。このモデルにより、企業(サービスやプロダクトの提供者)は、製品やサービスの体験がポジティブなものであることを確保し、リピート購入や口コミの生産に焦点を当てることの重要性を認識します。
消費者が今まで以上に選択肢を持つ現代社会では、DECAXのようなモデルがより一層の重要性を持つことになります。DECAXモデルは消費者が製品やサービスをどのように発見し、関わりを深め、評価し、そして最終的には購入に至るかを理解するための枠組みを企業に提供し、現代市場での成功を目指すすべてのビジネスにとって不可欠なツールとなっています。
DECAXの5つのステップ:ビジネスの現場での解説
Discovery:発見の過程とそのビジネス意義
ディスカバリーの段階では、潜在的な顧客が初めて製品やサービスを認識する場面が訪れます。これはカスタマージャーニーの出発点であり、企業にとって効果的に注意を引くことが重要です。デジタル時代においては、SEO、ターゲット広告、ソーシャルメディアプロモーション、インフルエンサーによるバイラルキャンペーンなどの手法が一般的に用いられています。
例として、Netflixが新市場でサービスを展開した際には、注目度の高い広告キャンペーンやローカルコンテンツを活用して注目を集めました。ただし、彼らは事前に潜在的なユーザーを深く理解し、地域の変化に敏感になることを重視し調査しました。その上で、ユーザーに素晴らしい機会を発見してもらい自分たちのプラットフォームに誘導するための話題作りをDiscoveryの段階で実践しました(出典:How Netflix Expanded to 190 Countries in 7 Years,Forbes, 2018)。
Engage:関係構築の重要性と手法
「Engage(関係構築)」ステージでは、消費者が製品やサービスを発見した後、その製品やサービスに対する関心を深め、具体的に関与し、密接な交流を行います。ソーシャルメディアでの交流、詳細な製品デモ、魅力的なコンテンツ、あるいは迅速な顧客サービスなどを通じてブランドと消費者との間に信頼関係を築くことが重要です。
Nikeの「Nike Run Club」は、このステージの良い例です。このアプリは、ユーザーが走行距離を記録し、その成果を共有し、コーチングを受けられるプラットフォームです。ユーザーは、アクティビティを通じてNikeとの関係を深め、Nikeの商品に対する関心を高めることができます。(参考:https://www.nike.com/nrc-app)
Check:確認のステップとその具体的な方法
「Check(確認)」ステージでは、消費者が製品やサービスの価値を評価し、その購入に値するかどうかを判断します。製品の詳細な情報や他の消費者のレビューなど、具体的な情報に基づく比較や判断が求められます。企業側からの詳細な製品情報、体験談の共有や簡単な比較表、シミュレーションツールなどを提供することが有効です。
例えば、Amazonの商品レビュー機能や比較機能は、このステージをサポートする役割を果たします。消費者は他のユーザーの意見や評価を参考にし、自身の判断を補完することができます。さらに、Amazonの「質問と回答」機能は、消費者が商品に関する疑問を解消し、より確信を持って購入に進むことができるようサポートしています。
Action:行動・購入への影響とその促進方法
「Action(行動)」ステージでは、消費者が製品やサービスを購入する決断を下します。この段階では、企業は購入プロセスを簡単かつ迅速に行えるようにすることが重要です。また、消費者が購入を遅らせる理由を取り除くことも重要です。例えば、送料無料、返品保証、割引クーポンなどの特典を提供して、購入意欲を高めることができます。
例として、Uberのアプリは、簡単なタップでタクシーを呼ぶことができ、その便利さが直接的な行動(利用)に結びつきます。これは、ユーザー体験の簡易さが購買行動に直結する好例です。
Experience:体験の価値と共有の力
最後の「Experience(体験)」は、消費者が製品やサービスを実際に使用し、その体験を共有することが重視されます。良好な体験こそがリピート購入を促し、口コミにより新たな顧客の「Discovery(発見)」を生み出します。
具体例として、Starbucksの「My Starbucks Story」キャンペーンは成功した体験共有の例です。顧客が自身のStarbucksでの体験をソーシャルメディアで共有し、新たな顧客の「発見」を引き起こす可能性を高めています。
以上が、DECAXモデルによる消費者行動の理解とそのビジネスへの応用です。各ステップは連続的で、互いに影響し合いながら、消費者と企業との関係を深化させます。
このように、DECAXモデルは、消費者の購買行動を理解するための、文脈に応じたある段階的な理解とアプローチの可能性を提供します。
DECAXと他の購買行動モデルとの対比
AIDMA(一般的な購買行動モデル)との比較
AIDMAは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字をとった伝統的な消費者行動を説明する購買行動モデルです。
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Attention | 企業や製品に初めて気づく。 | 顧客の認知を獲得する。 |
Interest | 製品やサービスに対する関心が生じる。 | 関心を維持し、それを欲求へと高める。 |
Desire | 製品やサービスを求める強い意欲が生まれる。 | 顧客が製品やサービスを求める理由を提供する。 |
Memory | 企業や製品の情報を覚える。 | 印象的で覚えやすいブランドメッセージを作成する。 |
Action | 購入や問い合わせなど、具体的な行動を起こす。 | 行動を促すための明確で簡単な手段を提供する。 |
AIDMAは、消費者が特定の経路をたどって購入に至るという、ほぼ直線的なプロセスを説明しているのに対し、DECAXは、消費者とブランド間のエンゲージメントと体験の価値を強調しています。
例えば、テレビCMは、視聴者のAttentionをつかみ(A)、Interestを刺激し(I)、Desire for the productを生み出し(D)、Memory of the productを生み出し(M)、最後にAction、例えば購入する(A)に導くと考えられます。
しかし、検索エンジンやソーシャルメディアの時代となり、消費者の購買までの経路はより複雑化し、予測しにくくなっています。DECAXは、この複雑さを認識し、より循環的なアプローチを採用し、消費者の体験を重視し、消費者と企業との関係構築の重要性を説いています。
AISAS( インターネット時代の購買行動モデル)との比較
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Attention | 企業や製品に初めて気づく。 | 顧客の認知を獲得する。 |
Interest | 製品やサービスに対する関心が生じる。 | 関心を維持し、それを欲求へと高める。 |
Search | 製品やサービスについて更なる情報を探す。 | 情報が容易にアクセスでき、理解できるようにする。 |
Action | 購入や問い合わせなど、具体的な行動を起こす。 | 行動を促すための明確で簡単な手段を提供する。 |
Share | 体験を他人と共有する。 | シェアリングを促すためのプラットフォームを提供する。 |
AISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)モデルは、インターネットの普及により消費者が情報を探求し、それを共有する行動を強調します。しかし、DECAXはこれをさらに進め、消費者がブランドとエンゲージし、その体験を価値あるものとして共有することを重視します。
特に、InstagramやTikTokのようなSNSは、AISASでは明示されていない、企業が消費者とより強いつながりを構築するような、消費者がブランドとの関係を深め(Engage)、その体験を共有(Experience)する場を提供しています。
AISCEAS(AISASの派生モデル)との比較
AISCEAS(Attention、Interest、Search、Consideration、Evaluation、Action、Share)は、Consideration(考慮)とExperience(体験)をそのモデルに組み込んでAISASを発展させたモデルで、製品の評価と検討のステップを強調しています。しかし、DECAXはこのプロセス全体をより広く捉え、消費者の旅は直線的ではなく循環的であり、ポジティブな体験がリピーターのDiscoveryにつながると仮定してブランドとの関係構築(Engage)と、その体験の価値(Experience)を強調します。
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Attention | 企業や製品に初めて気づく。 | 顧客の認知を獲得する。 |
Interest | 製品やサービスに対する関心が生じる。 | 関心を維持し、それを欲求へと高める。 |
Search | 製品やサービスについて更なる情報を探す。 | 情報が容易にアクセスでき、理解できるようにする。 |
Consideration | 製品やサービスについて検討し、比較する。 | 製品やサービスの利点と価値を明確にする。 |
Evaluation | 製品やサービスの価値を評価する。 | 評価のプロセスをサポートし、ポジティブな結果を導く。 |
Action | 購入や問い合わせなど、具体的な行動を起こす。 | 行動を促すための明確で簡単な手段を提供する。 |
Share | 体験を他人と共有する。 | シェアリングを促すためのプラットフォームを提供する。 |
例えば、オンラインレビューサイトでは、消費者が製品を検討・評価(Check)するだけでなく、そのレビューを通じて他の消費者と共有(Experience)することが基本機能になっています。
SIPS(SNS時代の消費行動モデル)との比較
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Social | 社会的な影響を受け、他人との交流を通じて意見を形成する。 | 社会的な影響を通じて製品やサービスの認知を広める。 |
Influence | 他人の意見や行動に影響を受ける。 | 信頼できる人々を通じて製品やサービスの認知を広める。 |
Participation | コミュニティに参加し、情報を共有・取得する。 | コミュニティに参加する顧客を鼓舞し、ブランドエンゲージメントを高める。 |
Sharing | 体験を他人と共有する。 | シェアリングを促すためのプラットフォームを提供する。 |
SIPSとは、Social、Influence、Participation、Sharingの頭文字をとったもので、ソーシャルネットワーキングの領域における消費者行動を表現したモデルです。
このモデルでは、社会的な影響力(Influence)と消費者のネットワーク内での参加(Participation)と共有(Sharing)の重要性に重きを置いて消費者が情報を共有し、調査し、購入し、発言するプロセスを強調しています。
これに対してDECAXは、SNSの影響力を認めつつも、さらに踏み込んで、「発見」「関与」「確認」の段階を含む、より幅広い消費者行動を包括しています。DECAXは消費者ジャーニーをより包括的に捉え、SNS内だけでなく、複数のプラットフォームやタッチポイントで適用できるようになっています。
VISAS:インフルエンサーを取り込んだモデルとDECAXの比較
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Viral | 口コミを通じて情報を得る。 | 口コミを通じて製品やサービスの認知を広める。 |
Influence | 他人の意見や行動に影響を受ける。 | 信頼できる人々を通じて製品やサービスの認知を広める。 |
Sympathize | 他人の意見や体験に共感する。 | 顧客が製品やサービスに対してポジティブな感情を持つよう促す。 |
Action | 購入や問い合わせなど、具体的な行動を起こす。 | 行動を促すための明確で簡単な手段を提供する。 |
Share | 体験を他人と共有する。 | シェアリングを促すためのプラットフォームを提供する。 |
VISASは、Viral(口コミ)Influence(影響)Sympathize(共感)Action(行動)Share(共有)の頭文字をとったモデルで、消費者の購買行動における口コミやインフルエンサーマーケティングの重要性を強調したモデルです。現代の消費者は孤立した存在ではなく、他人の意見や経験、特にインフルエンサーの意見に深くつながり、影響を受けていることを念頭に置いています。
VISASとDECAXの大きな違いは、VISASが特にインフルエンサーからの影響を強調するのに対し、DECAXが消費者と企業の直接的な関係性をより強調していることです。たとえば、ある化粧品ブランドが新製品の発売を告知する場合、VISASモデルはインフルエンサーが製品を試し、その感想を共有することで、消費者の行動に影響を与える可能性に焦点を当てます。一方、DECAXモデルは、ブランドが消費者に直接製品を紹介し、関係を築くことを重視します。
DECAXがインフルエンサーの影響力を排除しているわけではなく、Engageステージに見られるように、ブランドが消費者と関わりを持ち、関係を構築する能力に焦点を当てており、必ずしもインフルエンサーが含まれているわけではないという点がポイントです。
AIDEES:コト消費とファン心理に着目したモデルとDECAXの比較
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Attention | 企業や製品に初めて気づく。 | 顧客の認知を獲得する。 |
Interest | 製品やサービスに対する関心が生じる。 | 関心を維持し、それを欲求へと高める。 |
Desire | 製品やサービスを求める強い意欲が生まれる。 | 顧客が製品やサービスを求める理由を提供する。 |
Experience | 製品やサービスを使うことで体験を得る。 | 高品質の顧客体験を提供し、満足度とロイヤルティを向上させる。 |
Enthusiasm | 製品やサービスに対する熱意が生まれる。 | 顧客が製品やサービスに対してポジティブな感情を持つよう促す。 |
Sharing | 体験を他人と共有する。 | シェアリングを促すためのプラットフォームを提供する。 |
AIDEESは、Attention(注意・認知)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Experience(体験)、Enthusiasm(熱中)、Sharing(共有)の6つのプロセスの頭文字で構成される消費者行動モデルです。DECAXと比較すると、DECAXが消費者と企業の関係構築を重視するのに対して、AIDEESは消費者自身の心理的な変化と経験に重点を置きます。
例えば、あるライブイベントのマーケティング戦略を考えるとき、AIDEESモデルは消費者がイベントについて知り(Attention)、興味を持ち(Interest)、参加したいと思う(Desire)、イベントを体験し(Experience)、その後熱狂し(Enthusiasm)、その経験を他人と共有する(Sharing)という一連のプロセスに焦点を当てます。これに対して、DECAXモデルでは、イベントの主催者が消費者にイベントの情報を発見させ(Discovery)、消費者との関係を構築し(Engage)、イベントへの参加を確認させ(Check)、参加への行動を促し(Action)、体験を提供する(Experience)というプロセスを重視します。
様々なモデルの中でのDECAXの位置付け
ステップ | 顧客の状態 | 企業の目標 |
Discovery | 新しい製品やサービス、または情報を見つける。 | 顧客に新しい製品やサービスを提供し、発見の機会を提供する。 |
Engage | 製品やサービスと深く関わり、その価値を理解する。 | 顧客との長期的な関係を築き、製品やサービスに対する理解を深める。 |
Check | 事実や詳細を確認し、製品やサービスの価値を再評価する。 | 正確で詳細な情報を提供し、顧客の疑問を解消する。 |
Action | 購入や問い合わせなど、具体的な行動を起こす。 | 行動を促すための明確で簡単な手段を提供する。 |
eXperience | 製品やサービスを使うことで体験を得る。 | 高品質の顧客体験を提供し、満足度とロイヤルティを向上させる。 |
DECAXは、デジタル時代の消費者の購買行動を理解し、それに関与するための、より全体的でニュアンスのある柔軟な使いやすいモデルです。ユーザージャーニーの複雑さ、エンゲージメントとエクスペリエンスの重要性を認識することで、DECAXは、今日の競争の激しい市場において、より効果的に顧客とつながり、成長を促進しようとする企業にとって、魅力的なフレームワークを提供することになります。
DECAXを活用した成功例:実際のビジネスでの応用
NIKE(ナイキ)の例
ナイキは、DECAXモデルをマーケティング戦略にうまく応用した注目すべき例である。発見期において、ナイキは世界的に有名なアスリートとの提携など影響力のあるパートナーシップやインパクトのある広告を活用し、自社製品の認知度と関心を高め、エンゲージメントの段階では、ナイキは、ナイキトレーニングクラブアプリ、ナイキランクラブアプリ、ソーシャルメディアプラットフォームなどの様々なチャネルを通じて顧客と交流し、魅力的なコンテンツを共有し、消費者との交流を促します。
チェック段階では、ナイキはウェブサイトで包括的な製品情報、レビュー、お客様の声を提供し、消費者が十分な情報を得た上で意思決定を行えるようにします。ナイキのシームレスなオンラインショッピング体験と効率的なカスタマーサービスは、購入のアクション段階を促進します。
ナイキの「体験」段階への配慮も称賛に値する。同社は優れた製品品質を提供し、テクノロジーを活用して顧客体験を向上させています。例えば、ナイキフィットのスキャン技術は、顧客が正しい靴のサイズを得ることを保証します。こうしたポジティブな体験は、顧客のロイヤリティや紹介につながることが多く、それによってサイクルがDiscoveryフェーズに戻ることになります。
DECAXを理解し活用するためのポイント
DECAXのデメリット・危険性
DECAXモデルは、現代の複雑な消費者行動を捉えることができるモデルとして評価されていますが、その限界を認識することは重要です。潜在的な欠点として、2つ例示します。
実際の購買プロセスを単純化しすぎている可能性
消費者が各段階を直線的に、あるいは循環的に通過するという前提です。デジタル技術の登場により、消費者の旅は大きく変化し、より予測不可能で非直線的なものとなっています。
例えば、DECAXのCheckフェーズは、今日の消費者が購買決定を下す前にしばしば行う徹底的な調査や比較を捉えていない可能性があります。
また、消費者の行動や選好は個々に大きく異なるため、一部の消費者にとってはDECAXの各ステージが必ずしも一貫して適用されるわけではありません。
企業側のリソースを十分に考慮できない可能性
DECAXモデルは消費者視点を強く重視していますが、それは同時に企業側のリソースや経済状況などを十分に考慮できない可能性があるというデメリットも抱えています。これにより、DECAXモデルに基づいて企業が行動を起こす際には、リソースの配分や投資対効果などを綿密に考慮する必要があります。
DECAXの進化したモデル
明確な「これがDECAXが進化したモデルです」と言えるものは定まってはいません。
ここでは、提言という形で、DECAXを進化させる要素を示してみたいと思います。
「Interest(興味)」
「nterest(興味)」は「Discovery(発見)」と「Engage(関係構築)」の間に位置し、消費者が製品やサービスに初めて気づいた後、それに対する興味や好奇心がどの程度喚起されるかを示します。
つまり、「Interest(興味)」ステップでは、消費者が情報を探求する動機を形成します。これは広告やキャンペーン、口コミなど、消費者が製品やサービスを発見した後の情報処理の一部であり、消費者の注意を引きつけ、製品に対する好奇心や学びたいという意欲を刺激します。
例えば、消費者が新商品の広告を見て「Discovery(発見)」したとします。その後、「Interest(興味)」ステップで、その商品が自分の問題を解決するのに役立つという知識や、その商品が自分の生活にプラスになるという理解を深め、消費者の興味が喚起されます。
この「Interest(興味)」ステップは、消費者が次の「Engage(関係構築)」ステップへと進むための重要な橋渡しとなります。具体的には、消費者が製品やサービスに対して興味を持つことで、さらに深くその製品やサービスについて学びたいと感じ、それに関連するコンテンツを追求する可能性が高まります。これにより、「Engage(関係構築)」ステップへと進みやすくなります。
「Customership(顧客関係)」
Check(確認)、Action(行動)、eXperience(体験)を経て、企業は消費者との持続的な関係を築くフェーズに入ります。
消費者が、常に製品やサービスについて肯定的な意見を持つように努力します。この段階で重要なのは、消費者が感じる価値を最大化し、顧客満足度を高め、企業への信頼と忠誠心を深めることです。これには、高品質の製品やサービスを提供するだけでなく、一貫したサポートや優れた顧客サービスが求められます。
例えば、AmazonのPrime会員制度はCustomershipの良い例です。年間費を支払うことで、会員は送料無料や映画・音楽のストリーミングなど、さまざまな特典を享受することができます。これにより、Amazonは顧客からの忠誠心を勝ち取り、再度購入する意欲を高め、さらにAmazonを他の人々に推奨する意欲を引き出しています。
このように、「Customership」は企業と消費者との長期的な関係を強化し、消費者のロイヤリティを高め、持続可能なビジネス成長を支えるための重要なステップとなりえます。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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