リーンキャンバスは、ビジネスモデルを9つの要素に分けて考えるフレームワークです。
主にスタートアップのビジネスモデルを可視化するために使われます。
本記事では、リーンキャンバスの特徴やメリット・デメリットのほか、具体的な書き方まで解説していきますので、ビジネス成功のためのひとつの方法として、リーンキャンバスを活用してみてください。
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバスは、「Runnig Lean(ランニング・リーン)実践リーンスタートアップ」著者であり、起業家のアッシュ・マウリャ氏によって提唱されたフレームワークです。
リーンキャンバスの元となる、ビジネスモデルキャンバスがありますが、リーンキャンバスはビジネスモデルキャンバスからスタートアップに重要ではない項目を省略したフレームワークになっています。
スタートアップのための重要な顧客・課題・製品にフォーカスされているため、スタートアップであれば知っておくべきフレームワークといえるでしょう。
ビジネスモデルキャンバスとの違い
リーンキャンバスと近いフレームワークに、ビジネスモデルキャンバスがあります。
ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスは近い位置にありますが、厳密には内容が異なります。
ビジネスモデルキャンバスは、事業活動によって生み出される価値を再認識し、顧客に適した商品やサービスの訴求方法を探るために使われるフレームワークです。
大きく分けると、リーンキャンバスはスタートアップ向け、ビジネスモデルキャンバスは事業拡大向けと考えると良いでしょう。
リーンキャンバス4つのメリット
リーンキャンバスには、主に4つのメリットがあります。
- 短時間で作成できる
- 見直しが行いやすい
- 網羅的に可視化できる
- わかりやすい
なぜリーンキャンバスでそれぞれのメリットが得られるのか、各特徴について解説します。
短時間で作成できる
先述したように、リーンキャンバスはビジネスモデルキャンバスからスタートアップ向けに項目を省略したフレームワークです。
そのため、ビジネスモデルキャンバスと比べると短時間で作成できます。
構成も非常にシンプルなので、誰でもすぐ作成できる上に理解もしやすいです。
事業内容によって異なりますが、目安としては10分ほどで作成できます。
見直しが行いやすい
リーンキャンバスは、見直しが行いやすいのも大きなメリットです。
スタートアップの場合、検証を進めて立ち戻るという繰り返しになります。
その上で、見開き1枚で確認できるという点はメリットといえるでしょう。
すべての項目を埋める必要もないので、ブラッシュアップに時間がかかるデメリットもありません。
網羅的に可視化できる
リーンキャンバスを活用すれば、ビジネスモデルを簡単に確認できます。
可視化して確認できるので、チーム内での共通意識のズレも起きずらいです。
ただし、メリットを最大化するためには、リーンキャンバスを一人で作成するのではなく、チーム全体を巻き込んで作成することが望ましいでしょう。
わかりやすい
リーンキャンバスは、A4サイズ程度の紙にアイデアの要点を見やすく整理します。
そのため、社内だけではなく、社外に対しても価値をわかりやすく伝えられます。
また、アンケートやインタビュー調査を実施する際にもリーンキャンバスを元に作成すれば、簡単に理解してもらえるでしょう。
リーンキャンバス2つのデメリット
リーンキャンバスは、事業のわかりやすさなどの点においては非常に優れています。
しかし、デメリットがまったくないわけではありません。
主なデメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 時系列が表現しにくい
- 記載漏れの可能性がある
なぜそれぞれのデメリットが生じてしまうのか、以下で解説します。
時系列が表現しにくい
リーンキャンバスは、事業を整理するのにはとても役立つフレームワークです。
しかし、時系列まで細かく表現しません。
- いつまでに何をするのか
- いつまでに売上を挙げればいいのか
上記のような項目を表現できないため、確認漏れしてしまう可能性があります。
記載漏れの可能性がある
リーンキャンバスの大きなメリットは、事業案を素早くまとめられる点です。
しかし、いざ事業を進めていくとなれば、数多くの調査検討を行う必要があります。
たとえば「技術的な実現可能性」「資金調達方法」「リソース要件」などです。
これらを検討するためには、リーンキャンバスだけでは足りません。
リーンキャンバスで事業をまとめた後に、実現可能であるかどうかを調査する必要があります。
リーンキャンバスの書き方
リーンキャンバスの書き方について解説します。
リーンキャンバスは、以下9つの項目に分かれます。
- 顧客の課題
- 顧客セグメント
- 価値提案(UVP)
- ソリューション(課題解決)
- チャネル
- 収益の流れ
- コスト構造
- 主要指標
- 圧倒的な優位性
それぞれの項目でどのような内容を記載していくのかについて解説していくので、実際にリーンキャンバスを書いてみましょう。
顧客の課題
まずは、自社が解決を図ろうとしている顧客の課題を書いてください。
課題は、1つではなく3つほど書いておきましょう。
同時に、その課題に対して顧客が対処法として利用するサービスも考えてください。
ただし、ここで書く課題は真偽にこだわる必要はありません。
顧客の課題として挙がった点を、後からアンケートやインタビュー調査で検証するので、真偽にこだわりすぎて時間をかけないようにしましょう。
顧客セグメント
顧客セグメントは「どのような顧客の課題を解決するか」を特定する項目です。
ここでは、幅広い顧客層を書くのではなく、アーリーアダプターを記入してください。
アーリーアダプターとは、新商品や新サービスを早い段階で受け入れ、他の消費やユーザーに影響を与える顧客層です。
幅広い顧客層に設定してしまうと、他の要素を記入する際に多くの時間がかかってしまいます。
また、伝えたい軸がブレてしまい、共有しづらいリーンキャバスになる恐れもあるので、まずは軸となるアーリーアダプターだけ設定しましょう。
価値提案(UVP)
価値提案(UVP)とは「ユニーク・バリュー・プロポジション」、つまり独自の価値観を示す項目です。
自社で考えているサービスが、他社とどのように差別化できているのか、他のサービスにはない価値を考えて記載しましょう。
しかし、「リーン・スタートアップ」の提唱者であるエリック・リース氏は、この項目はリーンキャンバスにおいて最も重要かつ難しい部分だと指摘しています。
そのため、思いつかないからといって安易に書き込まないようにしてください。
思いつかない場合は、一度空欄にして次のステップに進んでも問題ありません。
ソリューション(課題解決)
ソリューションでは、課題に対する具体的な解決方法を書き込みます。
できれば、1つではなく3つほど記載しておくと良いでしょう。
しかし、仮説検証前の段階で正確な課題解決を導き出すのは困難です。
そのため、詳細な内容ではなく、概略のような内容でも問題ありません。
チャネル
自社と顧客が接点を持つための経路を記載する項目です。
どのようなチャネルでタッチポイントがあるのか、ユーザーの導線をイメージして検討してみましょう。
ただし、一般的にスタートアップの場合、チャネルの選択肢は多くありません。
そのため、仮説検証前の段階では、詳細な内容ではなく「どうすれば機会を増やせるか?」を軸に考えていくと良いでしょう。
たとえば「SNSで情報を多く発信する」「セミナーを開催する」などのアイデアでも良いです。
収益の流れ
収益の流れでは、どのように利益を得るのかを書きます。
「誰から」「どのように」利益を生み出すのかを書き出した上で、単価や人数、顧客当たりの利益などを想定して、一度の取引で見込まれる収益をシミュレーションしてみてください。
また、数年後の価格帯を予測して記載するのではなく、サービスリリース直後の価格を記載するようにしましょう。
コスト構造
コスト構造では、実際に製品を出す前にかかる費用を書きます。
製品を出す前にかかる費用の例として、以下の6つが挙げられます。
- 顧客獲得費用
- 流通費用
- サーバー管理費
- 人件費
- 広告費用
- 開発費
上記の項目はサービスや製品によって異なるので、自社のビジネスモデルを確認した上で記載してください。
また、コスト構造は、比較的初期費用として大きな設備投資が求められるビジネスモデルを検討している場合に重要です。
初期費用を抑えられるビジネスモデルであれば、簡易的に記載しておいても問題ありません。
主要指標
主要指標では、事業の成功を測るための目標値、KPIを設定します。
主要指標を記載する際には、AARRRモデルのフレームワークに沿っていくと書き出しやすいです。
Acquisition(獲得) | カスタマーの獲得(何も知らなかった人が見込み客になった) |
Activation(アクティベーション) | 利用の開始(見込み客が満足のいくユーザー体験したとき) |
Retention(定着) | 利用の継続 |
Revenue(収益) | 購入・収益の発生 |
Referral(紹介) | 顧客から他者への紹介 |
上記を商品物販系サービスに当てはめると、以下のようになります。
Acquisition | アプリのインストール |
Activation | 会員登録・ログイン |
Retention | 商品のお気に入り登録・ブックマーク |
Revenue | 商品の購入 |
Referral | SNSへのシェア |
自社のビジネスモデルに合わせて、それぞれをイメージして書き込みましょう。
圧倒的な優位性
最後に、競合に対して自社が圧倒的に優位である箇所を記載します。
優位性としては、以下のような内容が例として挙げられます。
- 顧客情報
- 専門家の支持
- サービスの信頼性
- 人脈
- SEO施策
ただし、本項目についてはPMF(製品が特定の市場において適合している状態)を達成し、事業を拡大していく時期に必要な項目なので、仮説検証前の段階で埋められなくても問題はありません。
リーンキャンバスを作成する手順
リーンキャンバスは、9つの要素を書き込むだけで完了ではありません。
以下でリーンキャンバスを作成する手順について重要な2つを解説していきます。
各要素の言語化
リーンキャンバスを作成する際は、左側の項目と右側の項目のバランスを考えながら9つの要素を言語化していきます。
基本的にリーンキャンバスのフォーマットは、以下のように配置されています。
左側 | 課題・課題解決・主要指標 |
真ん中 | 価値提案 |
右側 | 圧倒的優位性・チャネル・顧客セグメント |
これらをユーザー視点で考え、KPIに応じて要素の変更・修正を行います。
PDCAを繰り返す
リーンキャンバスは、各要素を言語化して書き込んだら完了ではありません。
圧倒的優位性が確実になるまでPDCAを繰り返してください。
修正と改善を繰り返して具体性を高めていかなければ、事業に対しての大きな効果は見込めません。
リーンキャンバスに書いた項目は、あくまで仮説にすぎず、真偽にもこだわっていないものです。
改善することを前提に記載されているので、実際に仮説の検討・実施を行い、全体の整合性がとれているかつ競合と差別化ができているかを明確にしなければいけません。
仮説検証を行うステップ
リーンキャンバスでは、仮説検証が必須項目だと考えてください。
しかし、仮説検証をどのように行って良いのかわからない人もいるでしょう。
そこで、仮説検証の具体的なステップについて解説します。
以下のステップを参考にしながら、リーンキャンバスをもとに仮説検証を繰り返してください。
1.仮説を立てる
まずはいくつもの仮説を立てていきましょう。
仮説自体は、自由な発想で考えて良いです。
ただし、注意しなければいけない点が2つあります。
- 顧客の視点から離れない
- 思いついたものを多く書き出す
アイデアの正しさにこだわる必要はありません。
凝り固まったアイデアの羅列にならないように、チーム全体を巻き込みながら広い視野でアイデアを書き出していきましょう。
さらに、9つの要素のなかでリスクの高いものを検討し、優先順位をつけておくと、次の段階に進みやすいです。
2.仮説検証
すべての項目に対しての仮説を書き出したら、検証を行います。
優先順位としては「顧客セグメント」「顧客課題」「課題の解決」の3つです。
これらの情報収集は、一般的にインタビューやアンケート調査によって行われます。
本当に顧客が課題と感じているのか、提供する課題解決策は本当に顧客が求めているものなのかを確認していきましょう。
また、インタビューやアンケートだけではなく、インターネット上の情報を調査するのも大事です。
仮説を裏付けるために、公開されている情報を調査してみましょう。
MVPの作成
MVPとは、「MInimum Viable Product」と呼ばれる小さなレベルの試作品です。
直訳すると「実用最小限の製品」という意味を持ちます。
言葉のとおり、この段階では試作品を作成し、市場に投入し、実際の顧客の反応やニーズとのマッチを確認します。
ただし、MVPの作成は、最小限のコストと時間で作らなければいけません。
そのため、機能や性能、デザインは必要最小限に絞りましょう。
だからといって、反対にできの悪いものをリリースしては意味がないので、製品やサービスの上で最も利用者に価値を感じてもらいたい部分に絞ってMVPを作成しましょう。
市場の検証
MVPでアイデアが事業として成立するか、市場を検証します。
MVPに対する顧客の反応を確認したら、意見が反映できる部分についての再検討と改善を行っていきましょう。
リーンキャンバス作成の注意点
リーンキャンバスを作成する際には、いくつかの点に注意してください。
リーンキャンバスは、あくまで仮説を記載していくものです。
「書く」ことが完了ではないので、あまりにも時間をとられすぎては本末転倒になってしまいます。
とくに注意すべき点は、以下の4つです。
- 全項目を埋めようとしない
- 正しさにこだわらない
- 短時間で書き上げる
- 何度も書き直す
事業計画書のような他機関に提出するものではないので、以下の注意点を意識して書きあげましょう。
以下で、それぞれの注意点について、より具体的に解説します。
全項目を埋めようとしない
リーンキャンバスは、全項目を埋める必要はありません。
検証を重ねてブラッシュアップしていくため、工程のなかで書き込んでいけば良いです。
事業の土台は必要になるので「顧客セグメント」「課題解決」「価値提案」については必ず埋めておきましょう。
「価値提案」については、必須項目ではありますが、後回しにしても良いです。
他の項目を記載した最後に価値提案について記載しても問題はありません。
また、リーンキャンバスはあくまで仮説なので、いくつもの内容を記載しておくのも良いでしょう。
全項目をきっちり一つに絞って書き上げる必要はありません。
正しさにこだわらない
リーンキャンバスは、項目の正しさや真偽にこだわる必要はありません。
仮説検証をする前提で書き上げていくので、都度ブラッシュアップしていけば良いのです。
部分的に修正する場合もあれば、1から考え直さなければいけない項目も出てくるでしょう。
そのため、最初から完璧にしようとすると、非効率になってしまう可能性が高いです。
修正することを前提に考えて、項目は簡略的に難しく考えずに書きあげましょう。
短時間で書き上げる
リーンキャンバスは、短時間で書き上げるようにしてください。
リーンキャンバスは長時間考慮しながら書き上げるものではありません。
リーンキャンバスを記載する時間は、おおよそ10分程度と考えてください。
どれだけ時間がかかっても、30分程度で書き上げるようにしましょう。
そもそも、リーンキャンバスのフォーマットなどに沿って書いていくと、一つひとつの項目は短文でしか書き込めないようになっています。
長文になる場合は、箇条書きにしたりわかりやすい言語化したりするなどして工夫してください。
どうしても長文になる場合は、別紙にメモとして残しておいて、後から簡潔な言葉に直して書き入れましょう。
何度も書き直す
リーンキャンバスは、一度で完璧に書き上げるものではありません。
何度も改善をしながら書き直すものです。
とくに、課題や顧客セグメント以外の項目については、具体的にイメージできないケースも多くあります。
これらは、具体的に記載できなくても問題ありません。
仮説検証を繰り返すなかで各項目を見直し、修正を加えながら完成させていくのです。
最初から完成形を求めずに、修正することを前提にしながらリーンキャンバスを作成していきましょう。
リーンキャンバスを元に事業を成功に導きましょう
リーンキャンバスは、スタートアップのビジネスモデルを可視化するためのフレームワークとして使えます。
1枚の紙にまとめられるので、短時間で作成でき、スムーズに共有できます。
しかし、リーンキャンバスを完璧に作成することを重要視しないように注意してください。
リーンキャンバスは、あくまで仮説検証を行う前提で書き上げるものです。
より洗練されたビジネスモデルにするために、リーンキャンバスを活用していきましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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